1年目
春
春A〜「それ」は「彼女」〜
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うことだってある。普段は何も感じない人も、私の鏡に映る姿を見られれば悲鳴を上げられる。そんな状態で暮らしたい人なんていないわよね……」
そう言って、ははっ……、と「それ」は笑った。
鈍感な俺でも「それ」の抱える気持ちに気づいた。
25年もの間、ここに一人でとどまり、来る人からは忌み嫌われ、姿を見られれば悲鳴をあげられる。確かに「それ」は悪霊だ。でも、それでも、中身は一人の“女の子”なんだ、と。
俺はふぅ……、っと一つ息を吐き、そして覚悟を決めた。
―――出ていかないよ。
「そりゃ、幽霊がいるなんて知らなかったし、そんなの知ってたらこの部屋だって借りなかっただろうけどさ。この部屋から出たって他の部屋は家賃高すぎてバンドやりながらバイトしていこうと思ってた俺にはきつ過ぎる。東京に来たのはバンドをやりたかったからだけどさ……、田舎から離れたのはどこか刺激を求めてたからだと思うんだ。それに、ルームシェアってなんか憧れてたんだよな。」
幽霊とのルームシェアに憧れる人はいないだろう。
そんなの、誰が聞いてもひどい言い訳にしか聞こえない。
それでも嘘はついていない。
もう少しこの悪霊を見てみたい、そう思ってる自分がいることが不思議だった。
そして、その言葉を聞いた途端、「それ」の口角が上がる。
「ほ、ほんと……? 出ていかないの!? やったー!!!」
またもや荷物が揺れ始める。
しかし先ほどの揺れとは違い、まるで音楽を奏でるかのように綺麗なリズムを刻んでいる気がした。
嬉しい時にも起こるのか……。
お願いだからもうギターは倒さないでくれよ……
そう思いながらも、俺はこれから始まる生活にどこか期待感を膨らませていた。
「あ、そうだ」
急に素に戻り話しかけてくる「それ」に、今度はなんだ、と体を強張らせ身構える。
「おかわり!」
元気よく追加注文をする姿に緊張してしまっていた自分が馬鹿らしく思えた。
食いしん坊な「彼女」との共同生活にはこれから骨が折れそうである……
あーあ……。自給のいいバイト、探さなきゃな……。
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