1年目
春
春A〜「それ」は「彼女」〜
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「遅い、遅い、おそーい!!」
案の定「それ」はご立腹のようだった。
怒りに呼応するかのようにまだ片付いていない部屋の荷物がガタガタと揺れる。
なるほど、こうやってポルターガイストは起こっていたんだな、と妙に納得をしてしまう。
そして、一つ確信した。
「それ」を怒らせるのは精神的にも身体的にも、そして俺の荷物的にもよくない、ということだ。その時だった。
―――ガタン。
大きな音とともにスタンドに立てかけてあったギターが倒れた。
「……っ!!!!!!」
俺が高校時代のほとんどを費やしてバイトをし、やっとの思いで手に入れた15万円のギターが、だ。
バイトの日々、そのギターをかき鳴らしたライブハウス…。まるで走馬灯のように頭の中を駆け抜けた。
「な、何してんだよ!!! 俺のギツァー……、ってめ、ふざけんあよ!!!!」
気付いた時には声にならない悲鳴をあげていた。初めて「それ」を見た時でさえ出た悲鳴が今は出ない。俺にとって“ギター>悪霊”だったらしい。
友達からの俺の印象。
@いい人そう
A温厚で怒りそうにない
そんな風に言われる俺だが、この時だけは声を張り上げた。息が切れ、呂律が回らないほどに。
「ご、ごめんなさい……」
前髪から覗く虚ろな目に少し涙が溜まっているように見たのは気のせいだろうか。ポルターガイストが治まっていくのと同時に、怒りも冷め始め、頭も通常運転に切り替わる。
そして、思い出す。
自分の目の前にいるのは悪霊であるということを。
思いだした途端、体中を悪寒が駆け巡った。
「と、とにかく冷めないうちにこれ食べちゃってください……」
俺は、おずおずと、なるべく近づかないように右腕をこれでもかと伸ばし、自信作のオムライスを「それ」に渡す。
だが、そこでふと疑問に思う。
はたして幽霊はものを食べることができるのか。そもそも物に触れることはできるのか。
「わぁ! ありがとう!!」
そんな疑問はすぐさま解決した。
「それ」は普通にお皿を受け取り、お預けをくらっていた犬のように口の中に駆け込み始めたのだ。
そして―――
「ごふっ…げほっ、げほっ……」
咽た。
俺はあわてて水を汲みに行き、「それ」に手渡す。
「そんな急いで食べなくてもオムライスはどこへも逃げませんよ……」
壊れたりしてないよな、と倒れたギターを抱えながら、そんな、どこかの絵本で聞いたことのあるようなセリフを自然に発してしまう。
そして、ギターをスタンドへと戻し、改めて「それ」を見て確信する。
この悪霊、怖くない。
姿はお化け屋敷やホラー映画に出てくるようなお化けそのものであるし、よく見
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