反董卓の章
第5話 「君は『劉玄徳』…………そうだろ?」
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は、神じゃない。だから、この世の真理をわかるわけじゃない」
「あ…………うん」
……そうだよ、ね。
「だけど…………人はいつか、それを乗り越えられる日が来るんじゃないかって、実は本気で思っていたりするんだ」
「……え?」
驚いて、ご主人様の顔を見る。
その顔は、ちょっと恥ずかしそうに…………笑っていた。
「戦いってやつは、俺のいた世界でも延々と続いている。きっと未来も戦い続けるんだと思う。けど…………それが何万年先かもわからないけど。いつか、人の理性と優しさは……そんな原初の業すらも超えられる、そう思うんだ」
「業……」
「人が争うのは生物の本能だ。だが、生物が生まれてから実に四十億年もの歳月が経って、ようやく人という理性持つ生物が生まれた。なら……きっといつかは、その本能にすら理性が勝つ日が来ると思っている」
「………………」
「その時まで、俺や桃香は生きていないかもしれない。でも…………俺達が想い、考え、行動したことは歴史に……そして、俺達の遺伝子に刻まれるはずだ」
いでん、し?
よくわからないけど……何かに残していけるってこと?
「それは俺達の子に、孫にずっと受け継がれる。そしていつかは、その礎が形となる。だから…………今思い悩み、それでも行動することは無駄じゃない」
「無駄じゃ……ない」
「ああ。絶対に無駄じゃない。正しさも愚かしさも……全てが繋がっていく。だから……」
すっと、ご主人様は手を差し出した。
その時、誰かが――運命が囁いたとでも言うのだろうか。
その背に――雲の切れ間から光が漏れさす。
その光が……ご主人様をまるで照らすかのように輝くのを、私は見た。
「どんなに迷っても…………どんなに辛くても…………前を向いて歩んでいこう。それを……君ならできるはずだ」
「ごしゅ、じんさま……」
「君は『劉玄徳』…………そうだろ?」
………………うん。
私は……この人となら、怖くない。
ずっと……いつまでも前を向いて歩いていける。
この人が、差し出すこの手がある限り……
「…………はいっ!」
私は、ご主人様の手を取った。
ご主人様を照らしていた光が、私にも注がれてくる。
その暖かさと嬉しさに――
私は愛する人に、精一杯の笑顔で笑った。
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