第五十六話 中華街その六
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「そう思っているからね」
「それでだな」
「君達には悪いけれど勝たせてもらうよ」
王は笑顔で二人に言った。
「恨みも何もないけれどね」
「なら戦うだけだ」
加藤はその王に鋭い声で返した。
「貴様にな」
「因果だとは思うけれどね」
「因果でも何でも俺は戦うだけだ」
敵がいる、それならというのだ。
「そうするだけだ」
「私もです。祖国の為に」
戦う、スペンサーも言う。
「貴方達は決して嫌いではないですが」
「私も大尉も・・・・・・ええと」
「加藤だ」
加藤は自分の名前を出せなかった王に対して名乗った。
「覚えておくんだな」
「そう、加藤君はね」
「嫌いではないですか」
「そう言うか」
「実際にそうだよ。私は下種や小悪党、それに泥棒は嫌いだけれどね」
二人は嫌いではないというのだ。
「まあ戦うのならね」
「そういうことか。それならだな」
「因果だけれどやらせてもらうよ」
飄々とした態度はそのままだ、口調もまた。
「そういうことでね」
「店にはまた来ていいか」
戦いではなかった、加藤の今の言葉だ。
料理jのこと、それを今言ったのだった。
「この店にな」
「子美にだね」
「そうしていいか」
「私の料理が気に入ったみたいだね」
「だからだ。来ていいか」
「勿論。剣士としては敵同士でもお客さんであることには変わりないからね」
王はここでも飄々として加藤に答えt。
「何時でも来ていいよ」
「それならな」
「うちのお店は月曜が休みだからね」
つまりその日には来るなというのだ。
「私もその日は休みだからいないよ」
「わかりました。では時があれば来させてもらいます」
スペンサーも穏やかな笑みで応えた。
「その時に」
「待っているよ、月曜以外にね」
王のこの場での言葉はこれが最後だった、そして。
加藤とスペンサーは子美を後にした、暫く二人で中華街を歩く形になっていたが華僑のいる場所には何処にでもある関帝廟の前に来たところで。
加藤は廟の前で立ち止まったスペンサーに言った。
「俺はここでだ」
「何処に行かれますか」
「右に行く」
丁度廟の前で道は左右に分かれていた、その右側に行くというのだ。
「そこにある店、雑貨の店に行く」
「そうですか」
「あんたは何処に行く」
「左に行けば地下鉄があります」
スペンサーは左の道を見ていた、人々が行き交い左右に店が立ち並んでいるその道を見てそれで加藤に話す。
「そこから領事館に行きますので」
「これでお別れか」
「またお会いしましょう」
右の道、やはり人が行き交い店が左右にある道を見る加藤への言葉だ。
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