第五十話 誠心誠意嘘を吐く
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クレメンツ元帥、三十代半ばくらいか。平民でありながら若くして元帥になった、ヴァレンシュタイン体制ならではだろう。
『先ず申し上げる。帝国軍はそちらを攻撃する意思は有りません』
「攻撃する意思は無いと……」
『いかにも、ここには交渉のために来ました』
クレメンツ元帥は妙な事を言いだした。どういう事だ、皆顔を見合わせている。
『捕虜交換、それを交渉したい』
艦橋がざわめいた。捕虜交換?
「交渉にしては随分と大軍だと思いますが?」
『已むを得ません、こちらは三百万の捕虜を連れて来ている。三個艦隊を動かしたのは彼らの護衛です』
ざわめきが大きくなった。三百万の捕虜を同行している?
『そちらとは捕虜交換を条件に帝国の内乱には介入しないという約束をしたはずですがそちらはそれを反故にした。帝国との約束など守るに値しないもの、帝国には信義等不要と思われたようだ。哀れですな、捕虜達が。帰国できるという希望を持ったが祖国が与えたものは絶望だった』
皮肉が溢れた口調だ。司令長官は反論出来ずにいる。
『昨年、帝国政府はそちらの政府に対して捕虜交換の交渉を行ったのですが交渉は決裂した。御存じでしょう、ビュコック司令長官』
ざわめきが止まらない。皆が顔を見合わせている。そんな交渉が有った事等聞いていないのだ。しかしビュコック司令長官の表情は渋い物になった。否定しないのだ、おそらく事実だろう。極秘の交渉だったようだ。
『改めて提案します、政府間交渉では埒が明かないので互いの軍で捕虜交換を実施したい。如何ですかな?』
「交渉に入る前に捕虜を確認させていただきたい」
『どうぞ、彼らは我々の艦隊の後ろに居る輸送船に乗っています。輸送船に移って確認してもらって結構です』
こちらから駆逐艦を五隻送って輸送船を確認する事になった。三十分ほどでクレメンツ元帥の言葉に嘘が無い事が分かった。確かに輸送船には捕虜が乗っている。
「条件は」
『有りません、お互いに抱えている捕虜を全て交換する、それだけです』
クレメンツ元帥の返答にビュコック司令長官の片眉が上がった。予想外だったのだろう。私も予想外だ、交渉の経緯から見て謝罪を要求すると思ったが……。
「少しお待ち頂きたい、一旦通信を切らせていただく」
ビュコック司令長官は一旦通信を切ると直ぐにクブルスリー統合作戦本部長に連絡を取った。そして本部長に帝国軍が条件無しでの捕虜交換を提案してきた事を説明した。本部長も驚いている。
『条件無しですか、しかもそこに連れてきている……』
本部長が呟くと司令長官が頷いた。
「捕虜を持て余していたのかもしれませんな」
『維持費がかかるという事ですか? 前回の交渉者もそれを言っていたようですが……』
「……ここまで連れてきているのです、断る事
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