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銀河英雄伝説〜悪夢編
第五十話 誠心誠意嘘を吐く
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十万帝国マルクもの大金が支給されている。案外金で片が付いたとホッとしているのかもしれない。

噂ではアンネローゼ様は帝国宰相の執務室から出てきた時、泣いておられたとか……。それに対して最高司令官は動じる事なく仕事をしていたそうだ。短期間でも夫婦で有ったのに、ましてアンネローゼ様を妻としていたのに、何の愛情も持たなかったのだろう……。冷酷非情な権力の亡者なのだ、最高司令官は。多分、例の子爵令嬢達と結婚するのだろう。

先行きに展望が見えない、もしかするとずっとこのままだろうか……、思わず溜息が出た。
「退屈ですか、キルヒアイス司令」
ルイ・フェルム少佐が私を見ていた。彼の表情にはこちらを咎めるような色は無かった、内心でホッとした。彼には随分と助けられている、不愉快な思いはさせたくない。

「そういうわけではありませんが……」
「まあ異常が無いというのは良い事ですよ」
そう言うとルイ・フェルム少佐が笑い声を上げた。
「そうですね、そう思わなければ……」
溜息が出そうになるのを慌てて堪えた。

「昔は臨検に抵抗した商船も有ったそうです。トラウンシュタイン産のバッファローの毛皮の密輸事件、御存じでしょう?」
「知っています、最高司令官閣下が摘発した事件でしょう」
私が答えると少佐が頷いた。

「あの一件、ビーレフェルト伯爵が黒幕で商船の船長はそれを盾にかなり抵抗したそうです。まあ表沙汰になればとんでもない事になります、必死だったんでしょう。しかし最高司令官に手酷くとっちめられて最後は泣きながら謝ったそうですよ」
「……そうですか」
性格が悪いのは昔からなのだ。人を追い詰め痛めつける事に何の痛痒も感じないのに違いない。いやむしろそれを楽しんでいる。

「そういう情報は直ぐ広まります。巡察部隊の臨検に抵抗するような商船は有りません」
「なるほど……」
「まして今は貴族は没落したと言って良い状況ですからね。後ろ盾になる存在が無くなりました。抵抗など到底無理ですね」
つまり武勲を上げる機会等全くないという事か……。当分、いやずっとこのままかもしれない……。また溜息が出そうになった。



宇宙暦798年 1月 15日  イゼルローン要塞司令室  ヤン・ウェンリー



「内乱が終わってそれほど経っていません、にもかかわらず出兵してくるとは……」
「余裕が有るのだろう、戦力は三個艦隊ほどらしい。その程度なら無理なく出兵出来るのだろうな」
「こちらとはえらい違いですな」
「全くだ」

提督達が話している。宇宙艦隊司令長官ビュコック元帥、第一艦隊司令官カールセン中将、第六艦隊司令官チュン・ウー・チェン中将、そしてイゼルローン要塞司令官兼駐留艦隊司令官ウランフ中将……。昨年の十二月の初旬、フェザーンから帝国
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