第百四十二話 小谷城からその十四
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「確かなものを備えておられる」
「確かに、手強いです」
「これまでの織田の諸将と同じく」
「うむ、将としても見事じゃ」
実は宗滴は信長の政の方をよく見ている、それと共に戦もだというのだ。
「わしもこれではな」
「まさか宗滴殿が」
「それはないです」
「いや、敗れることは兵法の常じゃ」
だからだというのだ。
「わしにしてもそうじゃ」
「宗滴殿は今まで敗れたことはないですが」
「それでもですか」
「そうじゃ、わしも同じじゃ」
敗れることがあるというのだ。
「「その時やもな、今は」
「そうは思えませぬが」
「とても」
「いや、これだけの戦はわしにも出来なかった」
彼のその長い戦の中でもだというのだ。
「だからな、ここでもう一手あればな」
「それで、だと仰るのですか」
「この戦に」
「うむ、負けるやも知れぬ」
そうなるかも知れないというのだ、だが彼とて負けるつもりはない。自ら槍を手に戦いを続けているのだった。
戦はまさに五分と五分になっていた、信長は何時しかその軍勢全てで攻めていた、そしてその中でだった。
遂に朝日が見えてきた、その朝日を見たその瞬間にだった。
信長は鉄砲隊にだ、こう命じた。
「よし、今じゃ」
「鉄砲をですか」
「撃つのですな」
「そうせよ」
まさに今だというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今こそ」
「闇夜で鉄砲は使いにくい」
引き金も満足に見えず弾を込めることも難しいからだ、闇世の中で鉄砲を撃ち再び弾を込められるだけの腕を持つ者は織田家にも僅かだ。
「しかしじゃ」
「朝は、ですか」
「違うからこそ」
「そうじゃ、撃て」
まさに今だというのだ。
「わかったな」
「わかりました」
鉄砲隊の者達は信長のその言葉に頷いてだった、そうして。
朝日を頼りに鉄砲を構える、その彼等に信長は命じた。
「撃て!」
「撃て!」
命が復唱される、そしてだった。
その鉄砲が思いきり放たれた、その鉄砲達は宗滴達ではなく朝倉の軍勢を撃った、鉄砲に当たる者は少なかったが。
突如出たその音にだ、皆驚いて叫んだ。
「な、何じゃ今のは」
「鉄砲か!?」
「鉄砲を使ってきたのか」
「そういえば今まで使ってこなかったな」
「夜だからな」
「しかしここでか」555
「朝になって使ってきたか」
このことが確認された、そしてだった。
朝倉の兵達は自分達が殆ど持っていない鉄砲に怖れを感じた、しかもそれが思わぬ出方をしたが故に。
一気に浮き足だった、しかもそれを見逃す信長ではなかった。
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