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戦国異伝
第百四十二話 小谷城からその十三
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「わしが先陣で攻めてから随分経つが」
「まだ戦うとはな」
「やはりわしは自惚れておったか」
 攻める前に信長に言ったことを思い出してだ、佐久間は言うのだった。
「わしではとてもな」
「宗滴殿の相手はか」
「無理じゃったわ」
 だから宗滴は立っているというのだ、戦の場に。
「十二分の力を出してもな」
「そう言うな、大事なのはじゃ」
「勝つことじゃな」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「今はな」
「確かにのう、言われてみればな」555
「ではよいな」
「うむ、また攻めようぞ」
 こう話してだった、彼等は攻めて信長の命で退く、そうしたことが朝まで繰り返されてそのうえで遂にだった。
 夜が明けてきた、ここでだった。
 信長が出てだ、こう言った
「ではな」
「はい、それでは」
「今からですな」
「わしが攻める」
 信長自らがだというのだ。
「最後にいいところを取る様じゃがな」
「いえ、それは」
「まあとにかくじゃ」
 今の言葉は笑って済ませてだ、そうしてだった。
 信長は自ら軍勢を率いてそのうえで前に出た、そこには鉄砲隊もある。これまでこの場の戦では温存されていた者達だ。
 その彼等に対してだ、信長はこう命じた。
「よいか、間も無く明るくなる」
「その時にですか」
「宗滴殿をですな」
「いや、宗滴殿は狙うな」
 肝心の彼はだというのだ。
「よいな」
「えっ、宗滴殿はですか」
「狙わぬのですか」
「そうじゃ」
 まさにその通りだというのだ。
「よいな」
「わかりました、それでは」
「その様に」
 皆信長の言葉の意味がわからなかった、だがだった。
 主の命なら仕方がない、彼等も従うしかなかった。
 それで信長の言うまま今は待った、戦は今にも明るくなろうとするその中で続けられた。
 その信長の激しさと慎重さを併せ持つ戦ぶりを見てだ、宗滴は唸る様にして言った。
「右大臣殿じゃな」
「はい、闇夜に馬印が見えます」
 信長のそれはだ、朝倉の者達からも見えていた。
「それを見ますと」
「そうじゃな、間違いないな」
「右大臣殿ご自身が出て来ておられます」
 間違いなかった、このことは。
「ですから今の敵将は」
「ふむ、これが右大臣殿の戦か」
 このことを確かめてからだ、宗滴は唸る様にして述べた。
「お見事じゃ」
「ではうつけなぞではないと」
「そう仰るのですな」
「殿はまだそう思われておるがな」
 義景だけは違う、彼はまだ信長をそう思い侮っているのだ。
 だが今の長槍の間合いと弓矢を巧みに使い左右からも攻める戦いぶりを見てだ、宗滴は言うのだった。
「違うわ、絶対にな」
「だからこれだけの戦をされるのですな」
「左様ですな」
「運だけではない」

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