喪失編
七話
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ちょっと待ってきゃあ!?」
顔だけで振り返ると女がうつ伏せで倒れていた。
さっきの声からして、転んだのだろう。
だが、不思議な事に辺りには何も足を引っ掻けるような物は無い。
しばらく眺めていると女が自分の顔に手を当て、小さく叫んだ。
「め、眼鏡がないっ。どこどこ.....!」
女が地面に手探りで眼鏡を探し始めた。
反射的に下を向くと足元に女のであろう眼鏡が足元に転がっていた。
女の方を見ると未だに検討違いな方向に眼鏡を探している。
拾う義理は無いが、このまま立ち去ると後々面倒になりそうではある。
「眼鏡だ、女」
「えっ、ありがとうございます!.....良かった、割れてない」
結局眼鏡を拾い、渡した。
女はレンズを空に翳して傷がないのを確認するとこちらに向き直った。
「眼鏡ありがとうございました。私はたしぎって言います」
「そうか。では」
たしぎの礼を簡単には受け取り、俺は背を向け船への道を歩いた。
「ちょっ、ちょっと待ってください!あの、名前は!」
「必要ない。もう会うことはないだろう」
歩きながら、返すとたしぎが俺の目の前に立ち塞がった。
たしぎは少し眉を吊り上げ、睨んでくる。
「でも、こちらが名乗ったのだからそちらも名乗るのが礼儀でしょう?あなたには常識が無いんですか!」
女が俺を指差して、説教をするが如く叫んだ。
今更ながら眼鏡を渡した事を後悔した。
夕陽が気付くともう沈みかけ、空には既に月が輝いていた。
流石にこれ以上は、看過できない。
「最後の忠告だ。邪魔をするな」
「いいえ!あなたには常識を教えてからですっ。それと名前を名乗ってください!」
女は引くどころか俺の肩まで掴む始末。
忠告はした。
これ以上情けを掛けるような程善人ではないし、どちらかと言えば俺は悪人だ。
常に理不尽な暴力を振るう立場にある。
「ぐぅっ!?」
間髪入れずに女の胴体目掛けて蹴りを放つ。
殺す程ではないが、不意を突かれたのもあり、恐らくアバラの五、六本は折れた筈だ。
当然後悔はない。
元より感情が希薄だという事もあったが何より一方的ではあるがこれは女が選択した運命だ。
「許せとは言わない。恨まれようが、構わない。元より罪悪感などないのだから」
俺はそう呟くと未だに土煙を漂わせている広場に背を向けた。
「ま、待ちなさい.....ゲホッ」
その声に振り向くと女が片手で腹を抑え、刀を杖のようにして立っていた。
至る所から出血しているが、量は少ない。
だが、あの怪我では自分の体を支えるのが限界だろう。
「無理はしない方がいい。死にたくないならそのまま誰か来るのを待った方が賢明だ」
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