第十三章
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第十三章
「空で鳥と戦うようなものですからね」
「少なくとも今の私達がそのまま行っても碌に調べられずに敗れるだけだ」
「死んだら元も子もないと」
「だからそれは論外だ」
結論としてこう語られたのであった。役のその言葉から。
「しかもだ。舟もだ」
「御丁寧に一隻も出ていませんね」
今度は波止場を見た。見れば確かに舟は一隻も出てはいない。どのみち今にも朽ちようとしている舟達だがどれも出ていないのであった。
「見事なまでに」
「ということはだ。彼等は海にいるとしてもだ」
「完全に人間としての手段で入ってはいない」
「答えが出たな」
役は冷静に述べたのだった。まるで全てを見透かしたかの様に。
「彼等は間違いなく夜に動く」
「ええ」
「そして海にいる」
このことも断定できることだった。何故ならこの村にあるものはその古ぼけた漁港しかない。他にあるものは何もないからである。
「それも人間の使う手段で海に入ってはいない」
「やっぱりそこまで考えますとこの村の連中は」
本郷の言葉は何時の間にか彼等を人間とみなしていないものになっていた。そして彼はそれを自覚しながらさらに言葉を続けるのであった。
「人間ではなくて」
「あの連中か」
役もまた人間とみなしていない言葉になっていた。目も海を見ているままであるが鋭く今にも何かと撃たんとするものになっていた。
「それしか考えられないな」
「まさかまだ生き残っているとは思いませんでしたよ」
本郷は今度はこんなことを言うのだった。
「いまだにね」
「世界は広い」
役は非常によく使われる言葉をここで出した。
「中にはこうした今だに生き残っている連中もいるということだ」
「実に傍迷惑なことに、ですね」
「傍迷惑でもこれが仕事だからな」
役は本郷に比べて幾分か、いやかなり冷静であった。
「やらなければならない」
「わかってますよ。けれどどうします?」
ここで役に対して問う本郷であった。
「連中をどうするかですけれど」
「少なくとも今日は動かないでおこう」
役はこう本郷に対して答えたのだった。
「今日はな」
「じゃあ明日にですか」
「それも昼に動く」
そうするというのであった。昼にだと。
「そうしよう」
「まずは昼ですか」
「敵が動かない時に動く」
また言う役だった。二人は相変わらず教会の前で海を見続けている。そのうえで言葉を続けていくのであった。
「その時にな」
「そうしますか。決着をつける時はそうもいかないかも知れませんけれどね」
「その時のことはまた考えておく」
今ではないということだった。少なくとも決着をつけるその時はだ。
「またな」
「じゃあ今夜はこれで終わりですか」
「そうしよう。では本郷君」
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