第十二章
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第十二章
「ここはな」
「式神ですか」
「いつものことだがな」
その数枚の札を見ながらの言葉だった。
「これを使う」
「それで村の中を見回してみますか」
「村だけでなくそれぞれの家の中もな」
そうした場所も見るというのである。
「見回してみる」
「それじゃあそれで御願いします」
本郷は役に対してそれでいいと返した。
「何かを知らないと何もなりませんからね」
「その為にも式神は使える」
また言う役だった。
「それではだ。ここでもだ」
「ええ。御願いします」
本郷の言葉を受けてそのうえで札を投げた。するとその数枚の札はすぐに白い蝙蝠達になった。彼等は壁をもすり抜けそのうえで村中を見て回るのだった。
蝙蝠達を飛ばせながら役は。その目に怪訝な色を浮かべて述べた。
「妙だな」
「何かありました?」
「何もない」
あったのではなくないというのである。
「何もだ。ない」
「ないんですか」
「そうだ。村の中にも家の中にも何もない」
こう本郷に述べた。教会の前に立ったまま。
「何もな」
「っていうと誰もですか」
「当然人もいない」
役は言いながらその目をいぶかしむものにもさせていた。そうしてそのうえで本郷に対して問うのであった。
「これについてどう思うか」
「異様ですね」
今の役の問いに対する本郷の返答はこうしたものであった。彼もまた話を聞いていてその目をいぶかしむものにさせていた。そのうえでの返答だった。
「それはまた」
「確かに村人は存在しているが」
「ええ」
「しかし誰も見当たらない」
「村の何処にも。そして家の中にもですね」
「何処にも誰もいない。何故だ」
「答えはですね」
彼の言葉を聞いてまた答えを出してみせた本郷だった。頭の回転の早い彼らしく答えはすぐに返って来たのであった。
「一つだけですね」
「他の場所に行ったな」
「それしかないでしょう。そこにいなければ別の場所にいる」
彼はこう言うのだった。
「それしかありませんから」
「では何処にいるかだ」
役が次に問題として出したのはこのことだった。すの何処にも見当たらない村人達は今何処にいるのか、そのことを問題として出してみせたのだった。
「彼等は一体今何処に」
「あの姿形って言えば普通は偏見になりますが」
本郷は一旦こう前置きはした。しかしそれでも言うことは言うのであった。
「一つしかないでしょうね、やっぱり」
「海か」
「ええ。そこしかないと思いますよ」
実際に海の方を見ての言葉である。海は白く大きな満月に照らし出されその中で波を輝かせその月も鏡合わせに映し出している。彼は今その海を見て言葉を出していた。
「やっぱりね」
「そうだな。私もそこしかないと思っている」
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