第二章その一
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密室裁判である。
この密室裁判の発端はルイ十四世の愛人の一人が王の寵愛を得られなくなり自身の権勢に翳りが見え始めたことがそうであった。
焦った彼女は一人の老婆の下は行った。この老婆の名をラ=ヴォアザンといった。表向きは薬や占いで生計を立てる善良なっ何処にでもいる老婆だったがその正体は黒魔術をもとにしもぐりの堕胎や毒薬、そして暗殺等陰の仕事を司る組織の大元締めだったのだ。
彼女は寵妃に国王の暗殺を持ちかけた。寵妃さ最初は狼狽したもののどうせ寵愛が戻らないのなら、とその計画に同意した。やがて彼女は老婆の主催する黒ミサにも出席し赤子の生き血で全身を濡らし歓喜に打ち震えるようになる。
計画は極秘のうちに進められ国王の命は誰もが知らぬうちに冥皇の下に送り届けられようとしていた。だが些細なことからこの計画は暴かれることとなった。
宮廷に一人の神父が駆け込んできた。彼の顔は雪の如く真っ白であった。彼の口から話される事はそれを聞く者の顔を彼のそれと同じものにするには充分であった。
彼が信者の懺悔を聞いているとある者が徒党を組んで国王を魔術で殺そうとしていると告白したのである。顔こ見えないが手や服を見る限りかなり高貴は身分の者であると悟った。
本来ならば信者の懺悔は自らの心のうちにしまっておくのが神父であるが彼はこの怖ろしい計画に怖れをなし宮廷に駆け込んだのであった。彼のこの行動は正しかった。結果としておぞましい悪の者達が炙り出されたのだから。
神父から話を聞いたルイ十四世はすぐさま動いた。自ら指揮を撮りこの事件の捜査にあたった。次々と政府や宮廷の要人達が捕まえられる。その中にはあの寵妃の姿もあった。
取調べは松明が点てられている窓もない密室で執り行われた。『火刑裁判』の名はこの松明から来ている。
その取調べは過酷であった。様々な惨たらしい拷問器具で責め抜かれ人のものとは思えぬ絶叫と鮮血が密室を彩った。やがてフランスだけでなく欧州全土に広がる黒魔術を信奉する組織が活動していることが明るみにされた。捜査は大変な方向へ向かっていった。
闇の世界の女帝ラ=ヴォアザンは火刑に処され寵妃は処罰こそされなかったものの完全に権勢を失い汚名の中に死んだ。一連の捜査が終わり闇の組織も壊滅したと見た国王はこの事件に関する全ての資料の処分を命じた。あまりの怖ろしさに後世への影響を恐れたのではないかと言われている。
「『火刑法廷』ですか。あの頃でも魔女狩りは既に忌々しい過去の遺物だったのですがね」
巡査長が暗い顔のまま言った。
「あの時でもそういった本当の意味での異形の者達との闘いは行われていたのです。滅多に表には出ないだけで」
「・・・今回もそうですかね」
本郷が彼にしては珍しく暗い顔で言った。
「否定は出来ないね」
役は一言言った。
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