11月11日〜君とチョコレート菓子〜
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ーを下がらせて猛烈な勢いで何事かを打ち込み始めた。フェルナーは平然と自席に戻ると、一心不乱に端末へ向かうオーベルシュタインを目の隅に入れながら、自らも端末へと目を落とした。
数日後の11月11日。
軍務尚書オーベルシュタイン元帥の名で省内メールが全省員宛へ送信された。何とも軍務省らしからぬと後世まで語り継がれたその内容は、概ね以下の通りであった。
『本日勤務終了後に、全省員参加によるチョコレート菓子ゲーム大会を開催する。総員勝ち抜き戦で実施し、最後まで勝ち抜いたものには軍務尚書オーベルシュタイン元帥と対戦する権利が与えられる。諸君の健闘を祈る』
省内は一時間もせずに騒然となった。
「軍務尚書とポッキーゲームか。こうなったら優勝を目指すしかないな!」
唖然としてメール画面を見つめたままのシュルツの肩を、事務局長のグスマン少将が力強く叩いた。
「そう……ですね。閣下とポッキーゲームですしね。絶対に優勝して見せます!」
やや上の空といった様子であるが、シュルツも拳を作ってそう返した。
「そうだよな。まずは練習を重ねる必要もある」
「はい!」
力いっぱい同意したところで、シュルツははたと考え込んで、やがて恐る恐る口を開いた。
「練習って……小官の身近にはできそうな相手がいませんし、そもそも……」
ごくりと唾を飲み込んでから、更に顔をこわばらせる。
「総員勝ち抜きと言われても、全員、男、ですよね……」
「あ……」
凍りつく事務官室の扉をそっと閉めて、フェルナーは軍務尚書執務室へとノックもせずに足早に入室した。部屋の主はとんでもない爆弾を軍務省じゅうに広めておきながら、何事もなかったかのような顔で書類に向かっている。
「閣下」
オーベルシュタインは部下の呼び掛けに顔を上げ、胡乱げな視線だけで答えた。
「あのメールのおかげで、皆、大騒ぎですよ」
フェルナーの表情は真剣そのもので、決して揶揄しているようには見えなかった。オーベルシュタインはその凍てつくような視線を外さぬまま、小さく肯いた。
「そうか」
「……予定通り、ですか」
返答はなく、上官は手元の書類の角を小さく折りたたんだ。これも、彼の逡巡を表す仕草であった。
「内容なんてどうでもいい。初めから、派手に騒がれることが目的でしょう?」
フェルナーの目が情報将校のそれに変わっていることに、オーベルシュタインは気がついた。折りたたんだ書類の角を丁寧に伸ばすと、低く小さな声で最も信頼のおける、そして最も警戒すべき部下へと囁いた。
「この知らせを、それと分からぬ方法でリークしておけ」
部下の翡翠の目が機械仕掛けの焦点と重なる。
「例えば、地球教のフェザーン支部などに、ですか。閣下との対戦権などという条件で自らを囮になさるなど、護衛隊の負担もお考え頂きたいものです
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