第一章その七
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。場を静寂が支配し草花も僅かに吹く風にその身を任せている。
月の光に民家と木々が照らされている。ほのかに映し出されるその状況は切り絵の様であった。
「これは幾星歳経とうとも変わらないな」
「絵画みたいですね」
「これで羽根をつけた妖精が飛んでいれば完全に幻想の世界だな」
役も満足そうであった。
「ところで役さんフランスの夜がお気に入りみたいですけど前に来たことがあるんですか?」
先程の役の言葉に尋ねた。
「うん、ちょっとね。以前この地に住んでいたことがあるんだ。ほんの短い間だったけどね」
役は口の両端だけで微笑んだ。
「初耳ですよ、それ」
「あ、話してなかったっけ」
「全然。前は科学者だったって話は聞きましたけど」
「そういえばそうだったかな。まあ機会があれば少しずつ話をしていくよ」
「ずっとそんな機会は来ない気がしますけどね」
本郷が首を傾げた。
「どうしてだい?私は別に隠してはいないよ」
役は優しげな表情で言った。
「役さんの話す事って多いですから。しかも全部長い話ばかりだし」
「長く生きているとそれだけ話す事も多くなるものさ」
「俺より五六歳上なだけでしょうが」
「そうだったっかな」
役はそう言って答えをはぐらかした。
「まあいいですよ、期待しないで待ってます。ところで何か臭いませんか?」
本郷の顔が少し真剣なものになった。
「臭い?」
「はい。何か・・・生臭い臭いですね」
その言葉に役も表情を変えた。
「・・・生臭い、か」
「はい。そして・・・獣の臭いも混ざっていますね」
「獣か」
二人の脳裏にふとあるものが浮かんだ。
「・・・その臭いは何処から臭ってきている?」
そう言いつつ懐へっ右手を忍ばせる。
「それは・・・」
本郷も懐へ手を入れた。左手の深い草原へ目をやる。
「あそこです!」
「そこかあ!」
本郷がナイフを放った。役が拳銃を発砲した。
草原から何かが飛び出した。そしてすぐ側の木の枝の上に飛び移った。
「遂に姿を現わしたか!」
「グググ、俺の気配に気付くとは流石だな」
木の枝の上に膝を付いて座るその者は不気味な声で笑った。人でない者が無理に人の言葉を喋っている様な声だった。
漆黒の毛に覆われた身体は月の明かりを反射し白く鈍く光っている。手は人のものに似ているが禍々しく曲がった爪が伸びている。脚は長いがその踵と足首は人のものではなかった。犬に似た、いや狼のものであった。
何よりも人のものと異なっていたのは顔であった。耳は長く三角に尖っており頭の上から生えていた。両眼は血の様に赤く濁っており邪悪な光を放っていた。口は尖りその先に黒い鼻がある。刃の様に長い牙は大きく耳まで裂けた口一面に生えている。その全てが嫌らしくぬめぬめと照る唾
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