暁 〜小説投稿サイト〜
魔狼の咆哮
第一章その五
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第一章その五

「風聞ですか。成程」
 本郷と役もにやりと笑った。
「ただこの一連の事件に妙な感心がある様なので」
「感心?」
 二人は眉をぴくりと動かした。
「はい。最初の事件が起こった頃から家の者が署に出入りしてきましてね。我々に何かと聞いてくるんですよ」
「妙ですね」
「カレー家の人間のアリバイは?」
「それが判れば苦労しませんよ」
 警部は力無く笑った。
「代々歴史の闇で蠢いてきた者達の行動など一介の警官の及ぶところではありません。調べようとしただけで命に関わります。本当の仕事もこの署で知る者は僅かです」
「では何故我々に話したのです?」
「御二人の捜査に関わると思いましてね。あえてお話ししたのです。ただし他言は無用ですぞ。あくまでこれは風聞なのですし」
「解かりました。私は何やら風聞を小耳に挟んだだけです」
「俺もです。何を聴いたか忘れました」
「それでいいです。くれぐれも御気を付けて」
 四人は話を終え旅館を出た。
「村から村への距離が結構ありますね」
 例のボロ車に揺られながら本郷が言った。
「こうして見ると本当に緑が多いですね。ここに来るまでフランスはパリとかベルサイユとかのイメージが強かったんですけど」
「あれは我が国の一部に過ぎませんよ。我が国は地域によってかなり個性が異なります」
 車を運転しつつ巡査長が言った。
「え、そうなんですか?」
「本郷君、それは失礼だぞ」
 役がたしなめる。
「いいですよ、我々も日本といえば『お江戸』ですしね」
「『お江戸』か。そりゃあいい」
 本郷は思わず吹き出した。
「あと『キョート』」
「我々がいるところです」
 役が答えた。
「そうなのですか?羨ましいなあ。一体どんなところです?」
 巡査長が顔を後部座席の方へ向けてきた。車がぐらっと揺れる。
「おわあっ!」
 危うく木にぶつかりそうになる。
「ちょ、ちょっと気をつけて下さいよ」
 大きく揺らされながら本郷が言った。天井にぶつけた頭を右手で押さえている。
「す、すいません。日本のことになるとちょっと」
 巡査長は慌てて前へ向き直った。
「日本に興味がおありの様ですが」
「はい。彼に替わって私がお話いたしましょう」
 助手席に座っていた警部が話し始めた。
「アラーニャ巡査長は空手と柔道が趣味なのです。その熱の入れようはどちらも黒帯になる程でしてね」
「黒帯」
「そりゃ凄いですね」
「いえ、大したことじゃありませんよ」
 前を向きつつ巡査長が答えた。
「巡査長、前を」
 警部がたしなめる。
「はい」
「それから日本の文化に興味を持つようになりましてね。今では日本についての本や日本の製品等を買い集めるだけでなく日本の漫画やアニメにまで熱中する有様なのです
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ