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魔狼の咆哮
第一章その四
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の夜に変身する種もありますし」
「ですがあの野獣の昼にも動いてますよ」
「はい、それは知っています。しかし昼間も行動する人狼とはかなり力の強い奴の様ですね」
「しかも人に見つからず。かなり手強い奴の様ですね」
 本郷も言った。そして再び地図に目をやる。
「ん?」
 地図に描かれた事件現場を見てある事に気が付いた。
「何です、この家は」
 事件現場を周りに散りばめる様に一つの大きな家があった。
「見たことろかなり大きな家ですけど」
「その家ですか」
 警部の顔が暗くなった。
「カレー家の邸宅です」
「カレー家?」
「はい。代々この地方を治めていた公爵家でしてね。今でもジェヴォダンの有力者です」
「フランスは色々と政変がありましたがそれを全て乗り切ったのですか?」
「はい。大きな声では言えませんがカレー家は欧州において重要な仕事を担っていましてね」
 警部の声が急に小さくなる。まるで何者かに聴こえないようにする為に。
「その仕事とは」
「表向きは葡萄酒の製造ですが本当の仕事は・・・。これです」
 左手の親指で首を掻き切る動作をした。
「カペー朝の頃尊厳王フィリップ二世に刺客として召抱えられたのが始まりらしいです。その功でこの地に領土を与えられてからジェヴォダンの領主となりました」
「随分と大きな仕事をしたらしいですね」
「あの頃はイングランドと抗争状態にありjましたし王権の強化に反発する貴族もおりましたし」
 フィリップ二世は『獅子心王』と称されたイングランド王リチャード一世と戦いかつ王権を強化した名君として知られている。
「イングランドの騎士や大貴族を次々と消していったらしいですね」
「はい。歴史の表舞台には決して出てきませんがね」
 警部が答えた。
「それから歴史の闇で刺客として動いていたわけですね」
「そうです。王朝が変わろうとも我がフランスはイギリスやドイツ、スペイン等と常に緊張した関係にありました。そういった状況では腕利きの刺客の存在が不可欠だったのです。それは革命政府でも帝政でも変わりませんでした」
「そして今現在においても」
 役の言葉に二人の警官は表情を暗くした。
「・・・・・・仰る通りです」
「二度の世界大戦の時も冷戦の時もこの家は暗躍しました。ドゴールの懐刀としてナチスやソ連の要人達を闇の中に葬ってきたのです。今も国際舞台の陰で暗躍しているようです」
「成程、それにしても御二人共よくそこまで御存知ですね」
「職業柄そんな噂話も耳に入るのです。根拠の無い風聞ですが」
 そう言って警部はにやっと笑った。

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