第一章その三
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ケットの内ポケットに左手を入れると左の建物の屋根めがけ何かを投げつけた。それは銀のナイフだった。
だがナイフは当たらなかった。屋根の上にいたと思われる何者かは家の向かい側へ飛び降りそのまま逃げ去ろうとする。
「させるかあっ!」
二人は素早く家の向かい側へ回った。だがそこにはすでに影も形もなかった。
「・・・いないか」
「何と動きの速い奴だ」
獣の気配はその場から消えていた。あの強烈な残り香だけが残っていた。
「残り香、ですか」
プレーンオムレツとトースト、そしてミルクの朝食を採りながら署長は二人の報告を聞いていた。二人も一緒に朝食を採っている。
「はい、動物園の獣の匂いそのままでしたね」
トーストをミルクで流し込みつつ本郷が言った。
「むしろそれより強い感じがしました。それに我々の気配に気付いたのか屋根の上に跳び上がりそこから向かい側へ飛び降り何処かへ走り去っていきました」
オムレツを切るフォークとナイフの手を止め役も言った。オムレツの切った部分から白いものが溢れて来る。
「尋常ではない身のこなしですね。やはり狼ではありませんか」
署長がオムレツを切るフォークの手を止めた。
「おそらく。残されていた足跡を見ると山猫とも違いましたね。狼のそれに近いものでした。それに」
役は続けた。
「もう一つ足跡が残っていました」
「・・・それはひょっとして」
署長の顔色が変わった。赤ら顔から血の気が引いていく。
「署長が思っておられる通りです。それをこれから御見せ致しましょう」
朝食の後署長は二人が気配を感じた角へ向かった。デッセイ警部とアラーニャ巡査長も同行している。
「これです」
現場には既に数人の制服の警官がいた。念入りに地面と屋根を捜査している。
そこに足跡はあった。足跡、と言うには不自然な程甲も指も大きい。まるで手の様だ。
「・・・人間のものですね。他の生き物のものとは違う」
署長は口に右手を当て言った。
「足跡、ではなく手の跡ですね。もう一つは狼の後ろ足の跡です。それから考えると」
デッセイ警部の顔も暗くなった。
「一つしか考えられませんね」
本郷が言った。三人の警官は暗い表情で頷いた。
「『野獣』です」
「『野獣』って・・・。人狼じゃあ」
「いえ」
巡査長が本郷の言葉を遮る様に言葉を発した。
「野獣が出た時から言われていたんです。あの野獣は人狼だと。今は科学が幅を利かしていますからおおっぴらには言えませんが多くの者が内心ではそう思っているんです。あれは人狼だったと」
「・・・・・・」
警官達は口を噤んでいる。何故なら皆巡査長と同じ考えだからだ。
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