第三章その八
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が吼えた。気が刀に満ちる。八相の構えを取った。
「喰らええええええええええ!!」
刀を振るった。赤い気が地走りで飛ぶ。そのままアンリが放った氷の柱へ突き進む。
気と氷がぶつかり合った。激しい衝撃と炸裂音が響く。
二つの柱が鬩ぎ合う。まるで剣と剣が鍔迫り合いするかの如き状況である。
アンリは動じなかった。自分の術が人間風情に破られるとは夢想だにしなかった。これで本郷と役を始末したと確信していた。その顔に必勝の笑みが浮かぶ。
本郷は気と氷の激突をしかと見守っていた。次の攻撃の用意を整えていた。
その後ろには役がいた。先程懐から取り出した石を脚の傷口に当てている。
気と氷はまだ鬩ぎ合っていた。どちらも譲らず柱が軋む音が響く。
氷にほんの僅かだがヒビが生じた。それはすぐに柱の全てへ伝わっていく。
アンリの氷の柱が割れた。割れて砕け散り床に飛び散った。青いサファイアの如き輝きが床に落ち溶けていく。
氷の柱を打ち砕いた気の柱が凄まじい速度で突進を始めた。一直線にアンリへ向けて突き進む。
アンリは何が起こったかわからなかった。自分の術が人間に破られるなどと思いもよらなかった。気が目の前に来ても状況を把握しきれていなかった。
気の柱がアンリを撃った。赤い光が部屋を照らす。それが部屋の中の無数の鏡に映し出される。
アンリは吹き飛ばされた。天を舞い床に叩きつけられる。鈍い音が響いた。背から落ち転げ一回転し胸からまた落ちた。
「ガハアアアアアアアアァァァァ・・・・・・・・・」
口から鮮血がこぼれ落ちる。牙が数本折れていた。全身を鈍い激痛が襲う。
右手だけで何とか立とうとする。だが立てない。胸に激しい痛みが走る。肋骨も何本か折れていた。
「最後だな。それだけの深手を負っては流石に動けはしまい」
上から声がする。見上げる。そこには緑の眼があった。その左手には銃がある。それはアンリの脳天に照準を定められていた。
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