第三章その七
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争うことはタブーなのであった。否それは狼よりも厳格な不文律でありかって野獣を放置したのもそれが為であった。結果として多くの犠牲者を出し国王の刺客に倒されるまで何もしないばかりか捜査まで妨害したのだ。
「わかりました、御二人にお任せ致しましょう」
カレーは引いた。二人はそこまで理解して言っているのだと知っていたからだ。
「有り難うございます」
「後は我々にお任せ下さい」
二人は刀と銃を構えた。それを見てアンリはせせら笑った。
「ふん、唯の人間共が俺を倒すだと」
さっきまでの憤怒と憎悪で歪んだ顔はなかった。自分より下等な生物に対する侮蔑と嘲りをたたえた笑いがあった。どちらにしろ醜悪な顔だった。
「どのみちシラノの奴の次は貴様等の予定だったがな。順番が変わっただけか」
「さて、それはどうかな」
アンリの嘲笑に対し本郷はぴしゃりと返した。
「人間には貴様みたいに牙や爪はないけどな」
構えを取り直した。
「あまりその人間をなめるとろくな結果にならないぜ」
構えに力が入る。全身を赤く激しい炎の様な気が覆っていく。
「そう、中には爪や牙を持つ人間もいる」
役の目が光った。そしてその色が変わっていく。
「邪な者を討つ為に」
眼は黒から緑になっていた。人のものより猫のものに近い眼だった。
「その眼は・・・・・・」
アンリはその眼を持つ者を一人知っていた。古よりこの世のあらゆる場所にその姿を現わす者、全てが謎に包まれた男を。
「貴様が・・・何故・・・・・・」
それには答えず銃を放った。アンリは咄嗟にそれをかわした。
だが役の眼に気を取られ動作が遅れた。銃弾が右手の甲を撃った。
「グウウウウウ・・・・・・」
銀の弾であった。人狼にとっては劇薬に等しいものである。アンリは呻いた。
「今度は俺が行くぜ」
本郷が突進した。刀を左から右へ横一文字に切り出す。
痛みに堪えつつアンリはそれを後ろに跳びかわした。
後ろに着地すると同時に前へ跳び左の爪を振り下ろす。そこへ役が再び銃弾を放つ。
銃弾がアンリの左肘を撃った。骨が砕ける音がし鮮血が飛び散る。その血は人間と同じ赤い色だった。
「これで左腕は使えないな」
役は表情を全く変えることなく言った。
「き、貴様・・・・・・」
痛みと役に対する怒りで顔が歪む。左手を上げようとするが肘から下が奇妙な方向に落ち動かない。
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