暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
勇者の狂宴
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
カグラは、こちらに背を向けたまま立つ黒衣の剣士の背中を見、ああ、というため息とも吐息ともつかない呼気を吐き出した。

似ている。レンに。

自らが剣と、命を差し出した一人の男。

レンは、この世界に来てから、時間が経つにつれてだんだんと口数が減り、壊れていくのが眼に見えて分かっていた。それを止めなかったのは、ひとえにカグラ本人の責任である。

カグラだって、マイに会いたかったのだ。そのためと言われれば、止めたくなくなるのも無理はない。

否、これさえも言い訳なのだろう。

だって、そこまでの犠牲を払ってでも、マイを助けることはできなかったのだから。

そこまでしても、結局壊れきったレンを止めることもできなかったのだから。

悔しくて、自然と涙が零れ落ちた。

目尻から零れた水は頬を伝い、あごを伝って冷たい屋根の上に音さえも立たずに落ちた。材質が何かも解らない黒いそこに、さらに黒い斑点が一つでき、それはみる間に広がっていく。

私は………何をしていたんだろう。

そう思った。

思ってしまった。

絶望が脳裏を、心を支配し出す。四肢の先っぽが冷たく痺れ、何も考えられなくなってくる。

そんなカグラに、背を向けた剣士は言う。

任せとけ、と。

何故だろう。何の根拠もないその言葉が、途方もないほどに心に染み渡ってくる。

温かい部分に入り込み、心全体を温め始める。それだけで、四肢に力が戻ってくる。

ブン、と彼は手に馴染ませるように発現した純白の剣を軽く素振りした。

だが、彼は《神装》の威力を甘く見ていたようだ。

たったそれだけの動作で数キロほどにわたって地殻に深い刀傷を作ってしまった。さながら地割れのようなそれに、NPCが数人の見込まれていくのを目の当たりにし、彼は慌てたように剣を抱きかかえる。

そんな動作に淡い笑みを浮かべる。

こんな地獄のような光景の中で何を、と思うが、その笑みは引っ込んでくれない。

六王第三席《黒の剣士》キリトは、足を踏み出そうとする。

その背中に思わずレンのそれを重ね合わせ、カグラは言った。

いつものように、竪琴の弦を弾いたかのような、凛と張った声で。

「行ってらっしゃい」










キリトは、手の中に出現した新たな愛剣に関する疑問は、それを握った瞬間に吹き飛んでいた。

馴染む。

驚くほどそれは、手に馴染む。

それを握り直し、キリトは遥か上空に浮かぶ《鬼》の姿をキッと見据えた。

レンは悪くない。それは分かる。

だってレンは、迷っただけなのだ。

道に、闇に、全てに。

今のレンは、さながら真っ暗で不気味な闇に溺れている時に一筋の光を見たようなものなの
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ