第三章その四
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」
そこには無数の赤く禍々しい眼が光っていた。そしてその眼達は宮殿へ向かっていた。
「お気付きでしたか」
カレーが役に言った。
「わかりますよ。この宮殿のことは昔から隅から隅まで知っていますし」
「昔からですか?」
「はい」
役は微笑して言った。謎めいた微笑だった。
「あの化け物共も倒さなくてはなりませんね」
窓の下の赤い眼達を見下ろしつつ中尉が独語する様に言った。
「ええ、しかしやはりまず倒すべきなのは」
カレーが静かな声で言った。
「わかってますよ」
中尉も同じく静かな声で返した。
「それはそうとアンリのいそうな部屋ってどこですかねえ」
「そうだな、まず考えられそうなのは」
役が考えをめぐらせた。
「幾つかあるな。まずは王室礼拝堂へ行ってみよう」
彼の言葉に従い六人は礼拝堂へ向かった。
かってルイ十六世とマリー=アントワネットの婚礼式が行われたことで有名なこの礼拝堂は他の部屋と同じく多くの芸術品で飾られていた。豪華かつ華麗な天井画、聖書の話をモチーフにした壁画、大理石の床、ロココ文化の神髄とも称されている部屋である。
「夜なのが残念ですがそれでも凄いのがわかりますね」
礼拝堂に入りつつ巡査長が言った。
「そうですね。今度来る時は昼にゆっくりと眺めたいですね」
中尉も同意した。
「今度は無いがな」
それに対し返す言葉があった。声の主は言わずもがなだった。
「よく来てくれた。死すべき者共よ。歓迎するぞ」
「アンリ・・・・・・」
声はするが姿は見えない。それが一層不気味を際立たせている。
「約束通り宴の用意はしてある。存分に楽しんでいくがいい」
不敵な笑い声が礼拝堂に木霊した。それを合図に礼拝堂の奥から気味の悪い唸り声が轟いてきた。
声の主は巨大な石像だった。逞しい男の身体に雄牛の頭を持っている。手には黒光りする戦斧が握られている。
「ミノタウルスか」
その姿を認め役が呟いた。
「この宮殿はギリシア神話の神の名を冠した泉や部屋が多いのでな。俺の作品に命を与え入れてやったのだ」
ぐっぐっぐ、と哄笑する声が響いた。
「彫刻もやっていたのか」
「俺を侮るなよ。絵だけが俺の才能ではない」
声だけが響いていた。
「さあミノタウルスよ行け。あの小賢しい愚者共を肉片に変えてしまえ」
主の言葉を合図に石像はゆっくりと進んできた。
咆哮と共に戦斧を振り回す。六人は素早い動きでそれをかわす。巨体からは想像出来ない速い振りだった。斬られた空が音をたてる。
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