暁 〜小説投稿サイト〜
魔狼の咆哮
第三章その三
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三章その三

 広いルームの奥から声が聞こえてきた。賞賛の数人の声とそれを受ける一人の声だった。若い男の声である。
「今回も素晴らしい出来栄えですね」
「ええ、まあ」
「あのコンクールに出展なさると聞いていますが」
「今は考えていません」
 そういった受け答えが繰り返されている。六人がそちらへ目をやるとそこには数人の評論家や着飾った貴婦人、そして絵の主と思われる黒髪の長髪の青年がいた。
 黒く波がかった髪を長く伸ばしている。それを後ろで束ねている。白い顔は肌も細かく整っている。鳶色をした眼は切れ長で何処か中性的な印象を与える。
 細くいささか華奢な感じながら引き締まった鞭の様な長身は芸術家というよりは何か特別な訓練を受けた者のようである。その身体を黒と赤の派手な絹の服で包んでいる。
「シャルル=ド=シリアーノ画伯か」
 長身の男を見て本郷が皮肉混じりに言った。
 その言葉が耳に入ったのであろうか。シャルル、いやアンリの方もこちらへ目を向けてきた。
 一瞬であったがアンリの目に憤怒と憎悪の光が宿り爆発した。その整った顔も見る見る歪んでいくように感じられた。
 だがそれは一瞬であった。一行から視線を外し評論家や貴婦人達の方へ向き直った。
「まあ俺達なんぞより綺麗な奥様方に囲まれている方がいいよな」
 本郷が軽口を叩いたその時だった。何者かが六人の脳裏に直接語り掛けて来た。
“よく俺の招待に乗ってくれた”
 アンリの声だった。おそらく魔術で語り掛けているのだろう。
“このベルサイユで貴様等を特別に宴に招いてやる”
 見ればアンリの身体からドス黒い気が発せられている。眼が不気味に光っていた。
“そりゃあどうも。で、どんな宴なんだい?”
 本郷が尋ねた。
“魔界の素晴らしい宴だ。貴様等全てを生贄とする最高の宴だ”
 アンリの声がくぐもった。哄笑が含まれていた。
“特にそこの日本人二人とシラノ、貴様等は念入りにもてなしてやる。楽しみにしていろ”
“それは楽しみですな”
役が受け答えた。
“しかし”
“?”
 役の言葉は続いた。
“カレーさんに斬られた腕の方は大丈夫なんですか?”
“・・・・・・!”
 その言葉はアンリの逆鱗を激しく刺激するのに十分言葉だった。
“おや、気分を害されたようで”
 役は悪びれることもなく続けた。
“不覚にも失われたその腕、どうやら再生為された様ですが完全に傷は癒えたのですか。そうでなければ宴の意味が無くなりますよ”
“貴様・・・・・・”
 アンリの声が震えていた。怒りでわなわなと震えていた。
“おや、大丈夫ですか。気持ちが高ぶっておいでですよ”
 役は更に挑発してみせる。
“覚えていろ、貴様には特別に惨たらしい死を与えてやる”
“おやおや”
 心の中で
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ