本編 第一部
三章 「真心の隣に友情はあったりする」
第十四話「授業風景 『語り部』」
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
国語の授業になって、豊村は、今度は、細川 百合の凄さを目にする。
「えーこれは、これは誰か読める奴いるかー」
「はい・・・・・・」小さな声が静かな教室に凛と鳴った。
「じゃあ、呼んでくれ」
「これは、平家物語ですね。ちゃんと全文が載ってるなんて、感激です。それも原文とは。では読みますね」
そのときだけ細川さんは、まるで演劇をしているように叙情的だった。
そうだ、あの名文で始まる平家物語。彼女は原文では、内容が伝わらないと翻訳して現代語訳で朗々と語り始めた。
「祇園精舎の鐘の色、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」
細川さんは、あの名文はそのままにここから現代語訳で始める。
そして物語は始まる。先生は途中で止めようかと思ったがこれだけの朗読はめったに聴けないとあえてとめない。
「栄耀栄華におごるものも、それを長く維持できるものではない。ただ春の夜にみる夢のようである。勢い盛んなものも、ついには滅びてというのは、まさに、風の前にある塵のようである」
とつづく。平家物語のあの哀しい物語が始まったのだ。
清盛の子供時代から、清盛の英傑らしい物語がつむがれるそれは、またなにかのSF超大作のように新しい。が、しかしその清盛も病床に倒れてしまう。大将をうしなって、周りを見渡せば馬鹿ばかりの親族たち。親族は源氏に追い落とされてしだいに負け続け、そして散り散りに。
まさに冒頭の文が物語るがごとくであった。だけど、勘違いしてはならない。清盛も、将軍の仲の将軍。平家一族も、誇り高い名門の一族。しかし、天なのだ、天だけがこの一族
に味方しなかったのだ。そして天とは時代の流れで、源氏に味方したのだ。しかしその立役者の義経も兄である頼朝に平泉でだまし討ちにあい。死んでいく。天下は誰かが統治せねばなるまい。しかしそれは、人を鬼にかえる諸行なのだ。
そして細川はその凛とした声で最後の結びを言い終えた。
「そんな中、六代御前は三位の禅師として、高雄の奥で仏道修行に専念しておりましたが、鎌倉殿は、「平惟盛の子で、また文覚の弟子である。たとえ頭を剃ったといえども、心の中まで剃ったわけでもなかろう」と、召し取って亡き者にするため、
朝廷に奏聞するよう公家に話がありました。そして、安判官資兼に召し取らせ関東へ下らせました。やがて駿河の国の住人、岡部権守泰綱が申し付けられ、相模の国、田越河のほとりにて、ついに斬られたのでした。
十二歳より三十余歳まで命を保ったことは、みな長谷観音の御利生と言われています。三位の禅師(六代御前)が斬られたことによって、平家の子孫はここに絶えてしまいました」
クラス中から賞賛の声が起こる。物語は読み手で如何様にも変るものである。そして細川はプロも顔負けの朗読をしてみせたのである。
国語が終わって、細
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ