第四十九話 本当は臆病だったのかも
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
て考え込んでいたヴァレリーが顔を上げた。
「……帝国を創りださなくても終身執政官を常態化する事で対応は出来なかったのでしょうか?」
「最初はそれを考えたでしょうね、しかし彼らはそれを諦めざるを得なかったのだと思います」
「何故でしょう?」
「終身執政官には独裁の臭いと非常時の職というイメージが有ります。合法化には強い反発が出たでしょう。例え終身執政官という役職を合法化しても常態化は認められなかったと思います。そして非常時において終身執政官になろうとしても強い反発が出たはずです。無意味なものになりかねなかった」
「なるほど」
「民主共和政を維持しようとすれば権力を分散しなければならない、終身執政官は常態化しない。それは政治的、社会的安定の維持においてリスクを背負うという事ではないのか。ならば民主共和政ではなく別な政体、つまり君主独裁政により政治的、社会的安定の維持を図るべきではないのか、彼らはそう考えたのだと思います」
皇帝になったルドルフは直ぐには貴族階級を作り出してはいない。彼が貴族階級を作り出したのは劣悪遺伝子排除法を発布した頃、帝国歴九年頃からだ。ルドルフの周囲が権勢や虚栄心から帝政を推し進めたのなら貴族階級の成立はもっと早くていいはずだ。ルドルフが帝国歴九年頃から貴族を作り出したのはそうではない事を示していると思う。
では何故ルドルフは貴族階級を作り出したか? 切っ掛けは劣悪遺伝子排除法だが理由はやはり帝政の維持に有ると思う。この悪法が発布された時、共和政政治家達がルドルフに非難を浴びせている。ルドルフにとっては彼らが自分では無く帝政そのものを非難しているように思えたのだろう。
議会を永久解散し貴族階級を作ったのは連動しているのだ。帝政の敵を潰し帝政を守る組織を作る、そういう事だったのだと思う。全ては帝国の安泰、いや正確には政治的安定と社会的安定のためだとルドルフは考えたに違いない。俺の思うルドルフは傲慢で思い上がった男ではない、むしろ臆病な男ではなかったかと思う。だからこそ政敵の弾圧に熱中せざるを得なかった……。
女性二人がウンウンと頷いていたがヒルダが“神聖不可侵と唱えたのは何故でしょう”と質問してきた。
「自信が無かったのだと思いますよ。彼らは自分達が連邦市民を騙したのだと理解していた。ルドルフの死後も帝政を続けるには自分達の正当性を唱える事が必要だと思っていたのでしょう。そうする事で連邦市民から帝国臣民になった国民に対して帝政を否定する事は間違いなのだと思い込ませようとしたのだと思います」
俺が答えると二人ともちょっと呆れた様な顔をした。そんな顔をしなくても良いだろう、ルドルフにとっては自己神聖化は虚栄では無く義務だった。度量衡の単位を変えようとしたのもそれが理由だとしたら、悲劇と取ればいい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ