第1部:学祭前
第2話『秋雨』
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の行為のするよりも、この関係のよりをもどしたほうが、よっぽど童貞から成長できるように思えるのだ。
しかし……。
しかし、よりを戻すにも『どうやって』戻すのかが分からなかった。
関係まで持ってしまった世界と、今更別れられるか?
さりとて、言葉も拒絶できない。
どちらかを切らなければよりは戻らない。惰性でこのまま続けるしかないのか?
考えれば考えるほど、袋小路にはまっているような気がしてならなかった。
「よく……ここで会いますね」
不意に横から声をかけられ、誠はそちらを向く。
ギターケースを肩にかけた、茶髪でショートボブの少女がそこにいた。
服装は、紺のブレザーに青いリボンという、桜ヶ丘の学生服。
平沢唯であった。
「ええ……。そうですね……」
誠は、どぎまぎして答えた。
縁もゆかりもない、赤の他人から声をかけられたのだから。まして異性である。
もっとも、榊野学園に入ってから、コンビニで結構見かけたが。
唯のこわばった表情が、緩んだ。
唯と誠は、肩を並べて、出た。
誠は、いまだにドギマギとしている。
一方の唯は、誠が自分に答えてくれたことで、満面の笑顔になり、「榊野学園の人ですか?」「あなたのお勧めの食べ物って何?」「私、桜ケ丘高校の人ですけど、結構榊野の人って、賢そうですねえ」と、矢継ぎ早ぎに話す。
「い、いやいや、僕はどちらかといえば劣等生の方……」
多少、引きつり笑いを浮かべながら、誠は答えていく。
唯のギターケースが気になり、今度は、誠の方から聞いてみた。
「もしかして、軽音楽部の人、ですか?」
唯の笑顔が、さらに人懐っこいものになり、
「そうですよ!」
と、はずみのある声が返ってくる。
「榊野の学祭でライブするんですよ。私はリードギターだから、一生懸命練習するつもりです」
まったくの、本音である。
唯の人懐っこい笑顔を見て、誠の緊張感が、少しずつほどけていく。それと共に、誠の頭の中にある、世界と言葉の影も薄れてきた。
「そうですか、俺の……」恋人も、と言いそうになって、誠は少し恥ずかしくなり「友達も、軽音部のライブを一番楽しみにしてるんですよ」と答えた。
「へっへー、嬉しいなあ」
「俺も、楽しみにしてますよ」
一応の礼儀として、誠は言った。
が、唯の声にさらに張りが出る。
「あなたに言われると、さらに嬉しいです!」
別れる直前、唯は手を振りながら、
「待ってくださいね、必ず特上のライブを見せますから!」
そのあと、唯は勢いで、自分の名前を名乗った。
「私、平沢唯っていうんです!」
「平沢唯さんですか。いい名前ですね」
唯の率直さと、屈託のない笑顔につられ、誠も声に明るさを戻す。世界と言葉のことを、この時だけは
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