暁 〜小説投稿サイト〜
Cross Ballade
第1部:学祭前
第2話『秋雨』
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
の行為のするよりも、この関係のよりをもどしたほうが、よっぽど童貞から成長できるように思えるのだ。
 しかし……。
 しかし、よりを戻すにも『どうやって』戻すのかが分からなかった。
 関係まで持ってしまった世界と、今更別れられるか?
 さりとて、言葉も拒絶できない。
 どちらかを切らなければよりは戻らない。惰性でこのまま続けるしかないのか?
 考えれば考えるほど、袋小路にはまっているような気がしてならなかった。
「よく……ここで会いますね」
 不意に横から声をかけられ、誠はそちらを向く。
 ギターケースを肩にかけた、茶髪でショートボブの少女がそこにいた。
 服装は、紺のブレザーに青いリボンという、桜ヶ丘の学生服。
 平沢唯であった。
「ええ……。そうですね……」
 誠は、どぎまぎして答えた。
 縁もゆかりもない、赤の他人から声をかけられたのだから。まして異性である。
 もっとも、榊野学園に入ってから、コンビニで結構見かけたが。
 唯のこわばった表情が、緩んだ。


 唯と誠は、肩を並べて、出た。
 誠は、いまだにドギマギとしている。
 一方の唯は、誠が自分に答えてくれたことで、満面の笑顔になり、「榊野学園の人ですか?」「あなたのお勧めの食べ物って何?」「私、桜ケ丘高校の人ですけど、結構榊野の人って、賢そうですねえ」と、矢継ぎ早ぎに話す。
「い、いやいや、僕はどちらかといえば劣等生の方……」
 多少、引きつり笑いを浮かべながら、誠は答えていく。
 唯のギターケースが気になり、今度は、誠の方から聞いてみた。
「もしかして、軽音楽部の人、ですか?」
 唯の笑顔が、さらに人懐っこいものになり、
「そうですよ!」
 と、はずみのある声が返ってくる。
「榊野の学祭でライブするんですよ。私はリードギターだから、一生懸命練習するつもりです」
 まったくの、本音である。
 唯の人懐っこい笑顔を見て、誠の緊張感が、少しずつほどけていく。それと共に、誠の頭の中にある、世界と言葉の影も薄れてきた。
「そうですか、俺の……」恋人も、と言いそうになって、誠は少し恥ずかしくなり「友達も、軽音部のライブを一番楽しみにしてるんですよ」と答えた。
「へっへー、嬉しいなあ」
「俺も、楽しみにしてますよ」
 一応の礼儀として、誠は言った。
 が、唯の声にさらに張りが出る。
「あなたに言われると、さらに嬉しいです!」
 別れる直前、唯は手を振りながら、
「待ってくださいね、必ず特上のライブを見せますから!」
 そのあと、唯は勢いで、自分の名前を名乗った。
「私、平沢唯っていうんです!」
「平沢唯さんですか。いい名前ですね」
 唯の率直さと、屈託のない笑顔につられ、誠も声に明るさを戻す。世界と言葉のことを、この時だけは
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ