第1部:学祭前
第2話『秋雨』
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リボンの少女が、続いて話しかけてきた。
学級委員の清浦刹那。世界の幼馴染でもある。
「あ、刹那……」
「桂は、伊藤の周りにいつもいるし。伊藤も、完全に気がないってわけじゃなさそうだよ」
クールでしっかりした刹那。人間観察にも長けており、その言は、事実に近いとみていいだろう。
「いや、でも刹那、誠は今、桂さんとは距離4置いてるって言ってたよ」
「でも、気にしているのは確か。昨日も4組に行っていた」
「ま、まあ……桂さんはクラスで浮いているからねえ。やっぱり、気になるのは当然でしょう。」
誠の気が、言葉に向くのは嫌だけども、言葉の境遇もあり、世界は懸命に、割引いて考えようとする。
「まあそんなに言うのなら、聞き流していいけど」刹那はぶっきらぼうに言ってから、「ただ、気をつけたほうがいいと忠告しただけ。私は学級委員で、七海のような根回しはできないし」
機嫌を損ねてしまったか。世界はそう思い、
「いや……刹那の忠告はありがたいよ。でも……」
曖昧に、答えた。
やがて、誠が戻ってきた。
「いやあ、ごめんごめん。ちょっと山本先生の説教をくらっちゃって……。でも時間内だったよな」
「伊藤、確かに話し合いは4時から始めると言ったけど、みんなその前に来ている。
皆に合わせるべきだよ。それに、今回は他校の生徒を招き入れるわけだし」
「清浦、ごめんな」
刹那の注意に、誠は謝る。
誠のそしらぬ顔を見て、世界の不安が、急に高まった。
学級会が終わり、世界と誠の2人きりになった。
「誠……」
世界が、乾いた声で話しかける。
「何?」
「今夜、誠のうちに寄っていい?」
これが何を意味するか、誠はすぐ分かった。
言葉の顔が、一瞬浮かんだが、脳髄に、血のなせる肉欲が、むらむらと攻め入って、言葉の影を消してゆく。
しばらくたってから、
「ああ」
と、誠は言った。
その次の朝、誠は例のコンビニで、朝飯を買いに来ていた。
母は看護師の仕事で、朝になっても帰ってこず、自炊が日課になっていたが、事を済ませた翌朝は寝過すことが多く、作る暇がなかったのである。世界も、昨日のことがばれないように、昨晩帰っていた。
秋雨は、朝方止んで快晴に。
しかし、誠の頭はそれに反比例して、もやもやがどんどん濃くなっていた。
世界とした、その直後こそすっきりしたものの、しばらくしてから背徳感が、ついで言葉の満面の笑顔が、頭の中に住み着いて、離れなくなっていた。
世界の顔と、言葉の顔が、誠の脳裏でかわるがわる浮かぶ。
全く、浮気性の父を毛嫌いしながら、今の自分のやってることは親と変わらない。
結局、自分は親父と同じじゃないか!
早晩、よりを戻さないと、大変な事になる気がする。
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