第1部:学祭前
第2話『秋雨』
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ろ。
とはいえ、成績と将来は別物。
看護師をしている母の影響もあり、医療系に興味はあるが、自分のレベルで行けるのか。
浮気症の父と別れてから、母は女手一つで自分を育ててきた。
正直、父とは、もう会いたくない。
というより、自分と母を捨てて、他の女に靡いた父を、思い出したくもなかった。
こうしている間でも、通りがかりの男子生徒は、彼女の童貞卒業の、やたら騒ぎ立てている。
馬鹿馬鹿しくてかなわない。
そんなことよりも、こうして進路を決めて、仕事をする方がよっぽど、童貞から離れられるだろう。
実は、すでに誠は、童貞を喪失している。
言葉に「距離を置く」と言ってから、誠は世界と、『言葉と上手に触れ合う方法』といって、互いの体に優しく触れ合う練習をしている。
ところが、それがエスカレートしてしまい、ついに関係を結ぶに至った。
誠も世界も、『お互いのことは好き』『一回だけだし、それにこの段階で、童貞卒業も悪くない』と、その時は、思った。
その直後である。世界から告白を受け、付き合い始めたのは。
ところが最近、自分はあの時の感触を、もう一度味わいたくて味わいたくてたまらないのだ。
そういう欲気が、むらむら起こると、なおさらに彼女の、童貞卒業の騒ぎ立てるのが、馬鹿らしく感じてならないのである。
「誠君」
後ろから声を掛けられ、飛び上がらんばかりに、ぎょっとした。
ふりむけば、言葉である。
思わず読んでいた本を背の裏に隠す。
「言葉……」
「私、やっぱり……」言葉は、うつむき加減に言ってから、「誠君と、仲直りしたいです。またあの時のように、仲良くわらって、仲良く話したいです」
「あ……」誠は思わず「い、いや……俺も思わず、ひどいこと言ってしまったから。 言葉の気持ちを考えずに、言葉と触れ合いたいとばかり思っていたから……」
「私こそ、ごめんなさい」
言葉は、小さく頭を下げた。誠は、彼女のその姿が、しおらしくてしょうがなかった。
自分がいなくなってから、言葉がどれだけ、さびしい思いをしてきたか、想像するに難くなかった。
「ほんと、ごめんな……。こんなことになって……」
何がごめんなのか、自分でもわからなかったが、思わず口走った。
「そんな……。私たち、まだ何ともなっていないと思います。ただ……ただちょっと、喧嘩しただけで」
喧嘩なんて、そんなものじゃない。あれは自分が一方的に、距離を置く、と言っただけなんだ。誠はそう思い返す。
ふと、世界の顔が、彼の頭に浮かんだが、懸命に打ち消す。
これで冷たく拒んだら、言葉がどれだけ傷つくか。
「誠君の……都合にもよりますけど……」言葉は言ってから「学祭のときでいいんです、2人で回りませんか? それまでは無理して話さなく
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