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Cross Ballade
第1部:学祭前
第2話『秋雨』
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ま、まさか……澪先輩も恋煩い……?」
 いい加減にしてくれとばかりに、梓は、眉間にしわを入れ、苦虫をかみつぶした表情で尋ねた。
「うーん、そうだな、それに近いかな」
 澪は、答える。
『恋煩いに近いもの』
 というのはあながち、嘘ではない。
 ファーストフード店で会ってから、澪は桂言葉のことが、どうしても忘れられずにいる。登校時に、榊野の門を横切ったが、すぐ言葉が目についた。授業中でも思い浮かぶのは、言葉の愁いを含んだ表情ばかり。
 前世があるとすれば、つながりがあるのか、と思えるくらい。
「とりあえず、邪念を振り払うためにも、練習! 練習!」
 澪は立ち上がって、愛用のベースの調整を始めた。
「そうですね。ベストな演奏をしないと、人目ひけなさそうだし」
 続いて梓が、ギターの弦をいじる。
 唯は、いつものろのろしていて、練習の開始が遅いが、今日は普段以上に、練習する気になれなかった。
「そういえば」澪が切り出す。「榊野と桜ケ丘、たて続けにライブをやるとなると、演奏曲が足りなくならないか?」
「別にいいじゃねえか。足りなくなったら、今流行りのK-POPをアレンジするとか、策はいくらでもあると思うぜ」
 律は、特に気にしていない。
「何言ってんですか。私たちが作詞・作曲した曲だから、希少価値があるんじゃないですか」
 梓はすぐに反駁した。
「……まあ、時間が許す限り、私が考えてみるよ」
 澪がその場をうまく治め、練習を始めた。
「ねえ、ライブの時の服装、メイド服がいい? それとも水着? バニー?」
 さわ子が騒ぎ始めた。いつも手製のコスプレ服を、軽音部員に着せるのが趣味なのである。
「普通でいいよ、普通で。さ、うちらも始めるか」
 律は適当にごまかし、ドラムのスティックを持つ。
 唯は、もう正直、学祭のライブがどうなろうが、どうでもよかった。
 一つあくびをして、ケーキを丸ごと平らげた。


 雨脚は3時頃から、いよいよ激しくなっていく。
 そんな中、小さな進路指導室で、誠は本を読みあさっていた。
『14歳のハローワーク』、『迷うからこそ理系』。
『看護師になるには』、『ケアマネージャーになるには』。
 名の知れた大学の赤本も読んでみるが、難しすぎて1問ぐらいしか解けない。
 異性と付き合うようになってから、誠はここに来ることが多くなっている。
 かつては言葉、今は世界と、たて続けに彼女と接していると、妙に気疲れするのである。
 もてすぎるのも辛いのだ。
 その時は、普段行かない場所に行って、気分転換をしている。
 という気持ちが大半だが、正直、将来が心配という気持ちが、ないでもなかった。
 あまり授業態度は真剣ではないが、1か月ほど前から追い込みをかけるため、成績は中の上といったとこ
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