第1部:学祭前
第2話『秋雨』
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たけど、辛すぎてどうも……」
誠は、涼しい目を世界に向け、白い歯を見せて笑う。
それを見て唯の気持ちが、さらにしぼんでいった。女を連れた誠を、唯は見たことがなかったのである。しかも誠の彼女は、かわいくてスタイルも良い人物。
「私、ちょっと味わってみるね」
世界はそう言って、豆板醤チキンを2つ注文する。じゅうじゅうといういい音を立てて、豆板醤チキンが出来あがった。
勘定のときに誠が、
「今日は、俺がおごるよ」
「えーっ、でも悪いよ!」
「まあまあ、今日は母さんも月給日だと言ってたし」
誠は、特に気にしていない。こう、いつも女の子に優しいのだろう、と唯は思う。
「ホント、悪いね」
世界は、照れくさそうな、でも、とてもうれしそうな笑顔で答えた。
チキンを受け取り、弁当を買って、世界と誠は、並んでコンビニを後にする。
「やっぱり榊野の人だねえ……なんだ、もう彼女いるんだ」
憂はどこか、ほっとしたような口調でつぶやいた。
「何となく競争率は高い気がしたけどね。私もドキドキしたし」憂は続ける。「残念だけど、あきらめた方がいいよ」
「やっぱり……?」唯が、泣きそうな表情になる。「私の初恋なんだよ……あきらめなくちゃいけないの?」
「そりゃあ、深入りして、相手の人間関係を壊すのはいけないでしょ? お姉ちゃんの気持ちもわかるけど……」
最後に憂は、付け加えた。
「お姉ちゃんは、どんなになっても、私のお姉ちゃんだからね……」
放課後、音楽室。
「はーあ……」
唯は机に伏しながら、用意されたケーキをかじる。
今日も軽音部では、唯、澪、律、ムギ、梓、それに、顧問の山中さわ子を加えて、手始めにティータイムが開かれていた。ただ、少し違うのは、律の机とムギの机に、本がうず高く積まれているということ。
「唯先輩」最初に口を開いたのは、梓だった。「思い人のことは、あきらめた方がいいです」
「えっ?」唯は、思わず顔をあげた。「どうして? というか何で知ってるの?」
「憂から全部、話は聞いてます。大体その人、もうすでに彼女いるんでしょ? 下手に唯先輩が首を突っ込んだら、相手の人間関係だって壊しちゃうんですよ! そしたら相手が困っちゃうんですよ!」
「だってえ……私の初恋なんだよお……好きで好きでしょうがないんだよお……あきらめられないよお………思えば思われるってこと、ないのお?」
唯は、泣きそうな声をあげ、再び机に突っ伏してしまう。
「女は、初恋に情熱をかけるけれど、」続いて切りだしたのは、さわ子。「実りのないものよ。私なんか101回もプロポーズしたんだから」
「101回も!?」
律が思わず、驚きの声をあげた。
「そう。101回『Say yes』って言ったけど、帰ってきたのはいつも『No』
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