昔話
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それはアレスがやり過ぎだと考えたのか、あるいは後輩の自信の大きさにか。
かける言葉も思いつかず、テイスティアはもう一人の方に視線をやった。
後輩から――それも女性からの大敗にさぞ落ち込んでいることだろうと思えば、本人は小さく肩をすくめて、笑う。
「いや、さすがに違うね。ここまで完敗したのは、今までで初めてだよ」
「それはお相手に恵まれたと思慮いたします」
笑いながらかける言葉に、ライナは冷静な言葉で切り裂いた。
あまりに正直な後輩に、ウィリアムは一瞬呻いた。
だが、すぐに笑みを浮かべれば、落ち着いて答えた。
「いや、そうだね。まさにそうだ――井の中の蛙が、いま大海を知ったわけだね。だから、どうだろう。一緒に食事をしながら、その大海の広さを教えてもらえるかい?」
「お断りします。食事くらいは一人で食べれますので」
一言で切って捨て、ライナは踵を返した。
「あのね」
誘いに乗れというわけではないが、あまりの態度に思わずテイスティアは声をかけた。
「なぜ笑えるのでしょう」
「ん……?」
「私は初めて負けた時、笑う事ができませんでした。悔しいと思いました」
小さいが、初めての感情の発露に、テイスティアはそれ以上言葉をかけられない。
ただ黙って見れば、ライナは息を吐いた。
「なぜあの方は笑えるのか。そんな時間があれば、訓練をすべきでは?」
「……まあね」
「無駄なことを言いました。失礼させていただきます、では」
そういって、ライナは振り返る。
無表情な――それこそ人形を思わせる中で、微笑を浮かべる。
それは、この現状を良く知っているテイスティアでも思わず、惚れそうになる笑顔で――手にしたいと考える――だが、それは叶わない事が理解できる、綺麗で、冷徹な笑みだ。
「御機嫌よう」
+ + +
元より歴史を変えるつもりは、アレスには毛頭ない。
フレデリカがヤンに惚れているというのは、原作でも良く知っていたし、何よりも奪いたいとも思ったことはなかった。
しかし、男としての感情は、それとは別のベクトルを向いているらしい。
フレデリカに夕食を誘われ――士官学校のフレデリカ何て原作に出てなかったから仲良くなっても問題ないと言い訳まで考えた数時間前の自分を、今なら殺せるだろう。
「それで?」
目の前で、淡い茶色の瞳を興奮させながら、身を乗り出す少女がいる。
まだ十五になる少女は幼く、非常に可愛らしい。
表情がころころと変わり、それでいて知的な印象を持っていた。
あの朴念仁が惚れるわけだと、ある意味納得しながら、アレスは夕食のローストビーフをフォークに刺した。
ソースをからめて口に含む、二度ほど咀嚼して、アレスは少し考えた。
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