第二章その六
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
祖からの遺産があったみたいですけれどね。それでも彼が経営に携わってから事業がそれまでの倍以上になっています」
綿密に資料に目を通しつつ言う。
「しかも非合法な手段を使った形跡は無いな。あくまでクリーンなやり方で行っている」
「誰からも恨まれること無く。これだけ大きな会社を経営していると強引な手段を取ったりして多少は敵がいるものですけどね」
「だからこそ怪しい、とも見られるな」
役の目の動きが止まった。
「確かに本人の能力、努力の成果だろう。人に恨まれないようにする事が出来たのもその成果の一環だ。しかし勤めてそうなるふうにしているようにも感じられる」
「・・・そう思われますか」
「よくある話だ。裏の顔を持つ人間程表の顔は綺麗なものにしたがる。シカゴの闇の帝王アル=カポネも表の顔はしがない骨董品屋かなにかの冴えない親父に過ぎなかった」
「そして裏の顔はシカゴを裏で支配するマフィアのゴッドファーザーだった、というわけですね」
「誰もがその正体を知っていたけどね。そんなマフィアのドンですら一応表の顔は持たなくてはならなかったんだ。欧州の陰の世界で暗躍し続けてきたカレー家といえどそうだ。ましてその裏の顔はカポネ以上に知られてはならないこと、余計に気を使うだろうね」
「だからこそ表の顔はこれ程隙が無いのですか」
「私の予想だとね。猟奇殺人犯も表の顔はごくまともな社会人であることが多い」
「・・・でしたね。ハールマンといい」
ハールマンとは第一次大戦後の混迷するドイツにおいて次々と少年を犯しその肉を貪り喰った殺人鬼である。表の顔は肉屋だった。ちなみにその喰った少年の残った部分をソーセージ等にして店先に並べていた。客には新鮮な肉だと好評だったという。
「ただカレー氏が一連の殺人を行うような人物か、ということだ。彼の人物は謎に包まれている」
「そういえば資料からは彼の人物についてはわかりませんね。学生時代からほとんど他人との付き合いが無く仕事以外での他人との接触はありません」
「普段はこの屋敷の執務室で仕事をしている。屋敷から出ることはほとんど無い」
「スケジュールを見る限りでは。人狼は昼でも出て来ますからね」
「昼はいつも仕事が入っている。夜にもいつも決まった時間で就寝に入っている。昼型の生活だな」
「狼は夜に活動するもの、人狼も夜の行動は慣れているみたいでしたね」
ふとあの村での人狼のことが脳裏によぎる。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ