第一章その一
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黒髪の若者が答えた。フランス語だ。
「役清明(えんの きよあき)です」
茶髪の青年が答えた。
「よくぞはるばる日本から来られました。長旅は大変だったでしょう」
「いえ、これも仕事ですから」
役が真面目な表情で答えた。
「飛行機ですぐですからね。それにここへ来るまでの間こちらの料理を堪能させてもらいましたよ」
本郷が少しおちゃらけた顔で言った。
「おい、本郷君」
役がたしなめようとする。
「いやいや、我々フランス人にとって料理を褒めて頂くとは最高の名誉、その言葉実に有難いですな」
「そうですか?特に羊料理とオムレツが美味しかったですね。あと葡萄酒が」
「でしょうな。ここの酒も絶品ですぞ」
「えっ、本当ですか?」
本郷の目が光る。まるで小鳥を前にした猫の様な目だ。
「だがそれは仕事の後だ」
「はいよ」
役が釘を刺す。刺された本郷は大人しくなった。
二人は村の小さな旅館に案内された。その中の最も広い部屋には数人の背広の男と十人近くの制服の
警官達がいた。
「警部、そちらの方は」
一人の若い背広の男が尋ねた。
「こちらが日本からお呼びした探偵の方々だ。挨拶を」
デッセイ警部が手で二人を指し示す。
「ボンジュール、ジェヴォダンへようこそ。アラーニャ巡査長です」
「こちらこそ」
二人がそれぞれ手を差し出す。固い手だ。見ればかなりの長身で逞しい身体つきをしている。黒に近いダークブラウンの髪を後ろに撫で付け黒い瞳と彫の深い顔立ちは格闘家の様である。
一人の制服の警官が出て来た。太めの初老の男性である。赤ら顔でグレーの髪は多少薄くなっている。
「署長のリオンです。遠路はるばる御苦労様です。捜査に御協力御願いします」
「こちらこそ。謹んで御受けいたします」
役が答えた。
「はい」
話が終わると本郷が前に出た。
「じゃあ始めますか。早速ですけど事件てのはどんなのですか?」
「はい、実は・・・・・・」
署長の顔が急に険しくなった。赤ら顔が青くなっていく。年期を経た警官が青くなるのを見て二人はこの事件がかなりおぞましい性質の事件であると悟った。
「この写真を御覧下さい」
二人に差し出された一枚の写真、それは無残な少女の遺体だった。
十四、五といったところであろうか。波がかったブロンドとブルーの瞳を持つ美しい少女だ。そのままの姿だったなら。
首は喰われ胴から離れている。頬は喰われ白い歯が見えている。左目は抉り出され地に落ちている。青いブラウスは引き裂かれ乳房が食い千切られている。手足はあちこち喰われ骨が見えている。腹も裂かれ臓物まで餌食とされている。
下腹部は陵辱されたのであろう。暴力の痕跡があった。気の弱い者なら見ただけで気を失うか嘔吐しそうになる写真であった。
「こ
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