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京に舞う鬼
第九章
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う思いましたか?」
「それは私も同じだ」
 役はそうめんを一口啜り終えた後で述べた。
「人間味は感じなかったな」
「やっぱりそうですか」
「だが妖気は感じられなかった」
「それは俺もですね」
「見てくれ」
 役はここで懐を開いた。
 そして懐から札を取り出した。見れば綺麗な白であった。
「札には変化はない」
「ですね」
「どうやら。彼女は妖かしの類ではないようだ」
「だったら何ですかね」
「人なのだとは思う」
 そして答えた。
「だが。非常に冷たい感じがするな」
「そういえばあの茶室全然暑くなかったですね」
「屋敷もな」
「ですね。夏だっていうのに」
「しかもクーラーの寒さではなかった」
「何かこう」
 本郷は感触を思い出しながら言った。
「自然に出ているものですよね」
「自然にな」
「屋敷全体が。少なくとも夏は感じなかったですね」
 うだるような京都の夏の中において貴子の屋敷だけが涼しかったのだ。夏ではないように。そこが二人には非常に奇妙に感じられたのだ。
「秋、いや初冬に近い程だったな」
「ええ」
「この暑い夏の京都でな」
 おかげで夏休みに入ると学生達はほぼ一斉に郷里に帰ってしまう。残る者もいるにはいるが少数だ。皆この京都の夏が耐えられないのだ。
「これは。どういうことかな」
「涼をとっているってわけじゃないですよね」
「それにしても限度がある」
「はい」
「あの感じはな、異様だった」
「どういうことでしょうかね」
 クーラーを効かしてあるこの店の中ですら暑いのだ。それなのにクーラーも見当たらなかったあの広い屋敷全体が異様なまでの寒さと言えるものまであった。これは一体何であったのか。
「あの人も調べますか?」
「待て」
 役ははやろうとする本郷を制止した。
「それは」
「しないんですか」
「おそらく彼女は人間だ」
「それはわかりますけれどね」
「札の気配は鬼のものだった」
「それじゃああの人は違うんですね」
「人だからな」
 役は言った。
「だが。人が鬼になる場合もある」
「そうですね」
 二人は以前そうした鬼と戦ったことがある。鬼は鬼からのみ生まれるのではないのだ。人が鬼になる場合もある。生きている場合も死ぬ場合も。成り得るのだ。

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