第八章
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ったので」
役は答えた。
「少しわかるのに手間取りました。しかし蘭とは」
「四季の花を揃えておりますので」
「四季の」
「はい。この京都の四季は実に鮮やかです」
貴子は述べた。
「それを。常に味わっていたいと思いまして」
「それについてはこういった考えもありますね」
「それは」
「四季は。移ろうからこそいいと。その季節にはその季節の花が、そして香りがあるのだと」
「確かにそうした考えは根強いですね。特にこの京都は」
「はい」
「私も。よく言われます。常に四季の香りがするのはそぐわしくないと。道というものがわかっていないと」
「私はそこまで言うつもりはありませんが」
「それはわかっております。ただ、そう言われることが多いというだけで」
「左様ですか」
「私には私の考えがあるのですが」
「美しいものはそのまま、永遠にと御考えでしょうか」
「否定はしません」
それが彼女の考えであった。
「美しさが留められるのなら。よいとは思いませんか?」
貴子は真剣な顔で二人、いや役に問うてきた。
「その為には。他のものがどうなろうと」
「厳しいですね」
役はまずはそれを否定はしなかった。まずはこう返しただけである。
「構わないのです。違いますか」
「それが道であると」
「そうです」
声に険しさが漂ってきた。
「美はこの世で最も素晴らしいもの。それが衰えていくことは我慢なりません」
「それだけですか?」
役も真摯な顔になっていた。その鋭くなった目で貴子を見据えていた。今二人は茶室において対峙していた。何時しか事件の話はなくなってしまっていた。
「それだけとは」
「貴女はこの屋敷にその香りを含ませている。そこにも何かがあるのではないでしょうか」
「その何かとは」
「美しいものは側に置きたくなるもの」
役は言った。
「それも。あるのではないですか?」
「おわかりですか」
「まあこれは個人としての心情ですね」
「それもあります。確かに私は美しいものは全て側に置きたいと考えます」
そして貴子もそれを認めてこう述べた。
「それができなければ」
「できなければ」
「私の中に。そして飾ります」
「飾る」
「道の一つとして。飾ります」
「成程、それが貴女の道なのですね」
「はい」
役の問いにこくりと頷いた。肯定の証であった。
「私の道は。永遠を目指します」
その身体に炎が宿った。全てを燃やし尽くし、犠牲にするような強い決意の炎であった。
「そして。その為には」
「その為には」
「鬼になりましょう」
そう、その炎はまさに鬼の炎であった。赤い紅蓮の炎が生物の様に貴子の身体の周りを覆い、燃え盛っていた。
「左様ですか」
「はい」
そしてそのうえで役の言葉に頷い
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