第三章
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と何か不安になるな」
「ちぇっ、信用がないなあ」
「仕方ないさ。キャラクターの問題だ」
「それだけですか?」
「それ以上言うのは京都人としてのマナーに欠けるのでね」
「言わないってわけですか」
「悪く思わないでくれよ」
「って言ってるじゃないですか」
「わかっていないな。まともに口に出して言わない限り言ったことにはならないのだよ」
警部はシニカルに笑って述べた。確かにそれが京都の流儀であった。
よくぶぶづけというものが出て来る。これを食べて行け、と。この言葉は素直に受け取ってはいけない。この言葉は早く帰れという意味である。
他にも結構ある。嫌な客が早く帰るようにというおまじないもある。とかく京都人というのはそうした言外に言葉を仕入れるものなのである。これが京都の流儀であった。
この警部も中々人が悪い。中々どころではないかも知れない。しかしこれも京都の流儀であった。それが本郷には少し面白くはなかった。
「何かねえ」
警部が帰った後彼は早速調査を開始した。役と二人で街に出たのである。向かう先はその首が見つかった寺である。
「俺やっぱりここに馴染めません」
「その言葉も何度目かな」
役はたまりかねたような言葉を言う本郷に対してこう返した。その表情は全く変わってはいなかった。
「そんなにこの街が合わないか?」
「夏は暑いですし」
このうだるような暑さを感じながら言った。
「冬は寒い。美味いものは高い金を出しても一見さんじゃお断り」
「それは私というから特に困ってはいないと思うが」
「まあ食べ物に関しては」
それはとりあえずは引っ込めた。
「けれど何か」
「都人というのはそういうものさ」
彼は言った。
「特に気にすることじゃない。あの警部さんには色々とよくしてもらってもいるだろう?」
「まあ確かに」
「実際は君のことも信頼しているさ。そうでなければわざわざ仕事を頼みには来ない」
「はあ」
「そこを見切るのも都人なんだ。それが京都というものさ」
「そんなもんですかね」
「それにこの街は厭きないだろう」
「まあそうですね」
それには頷くものがあった。
「こうした仕事も来ますし」
「そうだな。今回の仕事だが」
「やっぱりあれですかね」
本郷は言った。
「魔物でしょうか」
「可能性は高いな」
役は相変わらず表情を変えながら述べた。
「首に血が一滴もないとなると」
「ですよね。問題はその血をどうしたか」
「とりあえずはそのお寺に向かおう」
「ええ」
「それから全てがはじまる。まずはそれからだ」
「わかりました」
こうして二人はその首があった寺に向かった。そして早速聞き込みを開始した。
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