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京に舞う鬼
第二十六章
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第二十六章

「これで。熱をどけるぞ」
「それで帰るんですね」
「そうだ。鬼はここで全てを焼かれることになく」
「悪を清める浄化の炎ってやつですか」
「この屋敷が燃え落ちた時に全てが終わるだろうな」
「悪が燃え落ちた時にですか」
「そうだ。延焼する前にこちらで手を打つ」
「それなら」
 二人は燃え盛る部屋を後にする。既に畳まで燃えようとしていた。鬼はその後ろで紅蓮の業火に包まれていた。二人が屋敷を出た時には屋敷の全てが炎と化していた。彼等はそれを眺めていた。
「この札を使おう」
 黒い札であった。だが先程の闇の札とはまた違うもののようである。
「水の札ですか?」
「そうだ」
 五行思想では水は北、そして黒を表わすのだ。陰陽道は五行思想の影響を強く受けている。だから役が今取り出した水の札も黒の札なのである。
「これで。全てを消す」
「火には水ですか」
「水に勝てる火は存在しない」
 役は言った。
「身体を離れて生きられる影がないようにな」
「あの鬼はどの道こうなる運命だったんですね」
「そうだな」
 役は答えながら札を投げた。するとそこから忽ち巨大な水飛沫が上がり火の上に降り注いだ。そして赤い炎を消し去ったのであった。
「これでいい。帰るか」
「はい」
 本郷はそれに頷く。
「これで。この事件も終わりですね」
「そうだな」
「今まで犠牲になった女の子は可哀想ですけど」
 本郷は闇の中に崩れ落ちていく屋敷を眺めていた。何もかもが崩れ落ちる音が暗闇の中に響き渡る。
「一件落着ですね」
「ああ」
 二人は全てが闇の中に消え去った屋敷を見送って姿を消した。後には何も残ってはいなかった。ただ、戦いの後の炎の消えた跡だけが微かに残っていただけであった。事件は解決したのであった。
「そうですか、全ては」
 二人は翌朝延暦寺にいた。そしてそこで待っていた貴子と会っていた。
「終わったんですね」
「ええ」
「鬼は俺達が退治しましたよ」
 二人は延暦寺の山道を降りながら話をしていた。朝のまだ淡い光が苔むした石の道の左右にある緑の草達を照らし出していた。三人はその中を歩いていた。
「一件落着です」
「そうでしょうか」
 だが貴子はそれを聞いても暗い顔であった。
「何かあったんですか?」
「この事件ですが」
 貴子はその暗い顔のまま言った。
「全ては。私の執着から生まれたものですね」
「それは」
「この事件で。私は自分の心の醜さと罪を知りました」
「あれは貴方がやったのではありませんが」
「いえ」
 役の言葉に首を横に振る。
「あれが私の影ならば。全ては私がやったことになります」
「しかしあれは」
「だから。私は罪を償おうと思います」
「どうされるおつもりですか?」
 役
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