第二十四章
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殺す」
鬼は憎悪にたぎる声で言った。
「何があろうともな」
「遂にやる気になったってわけかい」
本郷はそれに軽口で返す。だがその顔は笑ってはいない。
「いいのかい?手前だって一歩間違えれば死ぬぜ。いや」
ここで言葉を変えた。
「死ぬのは手前だな」
「さて」
だが鬼はその言葉に当然ながら頷かない。
「わらわが死ぬとは思うておらぬが」
「自分ではな」
本郷はまた言い返した。
「けれどな。実際には違うんだよ」
「面白い。ではわらわの首、取るつもりか」
「最初からそのつもりだ」
「本郷君」
役がここで前に出て来た。
「仕掛けるのだな」
「ええ。援護頼みますね」
「小賢しい」
鬼はまた花をその手に出してきた。
「ならば。わらわもとっておきの毒で今度こそ葬ってくれる」
「今度は何だってんだ?」
「とりかぶとか」
本郷にはわからなかったが役にはわかった。
「また。強い毒を出してきたな」
「これで覚悟がわかるじゃろう」
「嫌になる程な。本郷君」
「わかってますよ」
役が何を言いたいのかわかっていた。
「じゃあ」
『貴子さん』
表は演技だ。心の中では貴子に問う。
『奴は。あのトリカブトをどうしてきますか』
『投げて来ます』
『投げて』
『はい。槍に変えて』
貴子は答えた。
『それも二本。本郷さんと役さんに』
『そうですか』
『ですから。御気をつけて』
『槍ならよけるのが楽ですね』
『いえ』
だが貴子はそれを否定した。
『あの槍は。普通の槍とは違います』
『毒ですね』
『はい、トリカブトの毒は猛毒です』
彼女は言う。
『おそらくは。放たれ、槍が向けられた時点で貴方達に毒が襲い掛かります』
『そこまでですか』
『ですから。絶対に放たたせてはいけません』
その言葉は何時になく真摯なものであった。
『わかりましたね』
『つってももう投げようとしていますけれどね』
「覚悟はよいな」
鬼は燃え立つ目で二人を見ている。
「この槍を受け、地獄へ行くがいい」
「地獄へ」
「それはまた大袈裟なことだ」
「わらわを本気で怒らせたからじゃ」
『今です』
ここで貴子は言った。
『槍は正面に向かって投げられます』
『正面に』
『そうです。ですから』
『なら』
役はここで黒い札を取り出した。
『今こそこの札を使う時』
『役さん、その札は』
『切り札だ』
本郷の問いに一言で答える。
『これならあの槍も封じることができる』
『とっておきですね』
『そうだ。だが危険だ』
『危険!?』
『この札は黒いな』
役は心の中で本郷に問う。
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