第二十三章
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「昨夜のことで。わかっておる筈じゃが」
「たまたまこっちが絶不調だったんだよ」
「負けず嫌いはかえって我が身を滅ぼすぞよ」
「生憎ね、減らず口が趣味なんでな」
「左様か。では覚悟はよいのじゃな」
「覚悟も何も言ってるだろ、退治しに来てやったって」
「わかった。では」
前の扉が不意に左右に開いた。そこからあの赤い着物を着た貴子、いや鬼が姿を現わした。白い足袋を履き、手には薙刀を持っている。目は赤く、禍々しく輝き、口からは牙が覗いている。完全に鬼の顔であった。
「相手をしてやろう。感謝するがいい」
「本郷君」
「ええ」
本郷は役の声に応える。二人は札と刀を抜いてそれぞれ構えた。
「行くぜ、化け物」
「またその様なことを」
化け物という言葉にその禍々しい目を細めた。
「わらわを捕まえて化け物とは」
「顔とかは関係ないんだよ」
「ほう」
「大事なのはやってることなんだ」
本郷は左に動いた。役は右に。すすす、と摺り足で動く。
「手前は。やってることが完全に化け物のそれなんだよ」
「悲しいのう、わらわの美を理解せぬとは」
「理解するつもりはない」
今度は役が言った。
「そしてしようとも思わない」
「無粋よの」
「人を殺めてまで達成しようとするものはもうそれだけで美ではない。魔道だ」
「魔道と言うか」
「そうだ。そして私達はその魔道を止める」
「覚悟しやがれ」
「ではわらわも見せてしんぜよう」
その手がゆらりと動いた。
「美の極致をな。受けるがいい」
手の中に花びらが沸き起こる。それは赤と白の椿の花びらであった。
「行くがいい、花達よ」
鬼の声に応え花びらが舞う。そして本郷と役の周りを覆った。
「めくらましか!?」
「いや、違う」
役にはわかった。
「この香りは」
「何か細工が・・・・・・クッ」
懐から札を取り出した。赤い札であった。
「させん!」
それを投げると炎となった。それで花びら達を燃やしていく。
「ほう、気付いたようじゃの」
鬼は燃え散る花びら達を見て目を細めていた。
「その花には。毒を仕込んでおったのじゃ」
「へっ、随分とこすい真似してくれんじゃねえか」
『役さん』
本郷は口と心では別の言葉を話していた。
『わかっている』
役も心の中でそれに応える。
『竜華院さん』
『はい』
本郷の返事に延暦寺の奥から返事が返ってきた。
『読めますか?』
『ええ』
『次は。どう来ますか?』
『棘です』
『棘』
『はい』
「さて」
鬼は今度はその手に薔薇の茎を出してきた。
「わらわはこの花も好きでのう」
「それで俺達をやるってのかい」
「左様。受けるがいい」
『上です』
貴子が言った。
『役さんの上です』
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