烈火の意味
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矢の陣形。
通常ならば艦列を整える時間で、ライナの後退は終了しただろう。
だが、既に艦列が整っている状態であれば、攻勢までの時間はかからない。
咄嗟に先ほどの命令を中断して、迎撃の構えを取ろうとする。
絶え間なく動いていた細い指が、コンソールの上で止まった。
間に合わない。
今の状態から艦列を編成しても、突撃するアレスの攻勢は止められないだろう。
ならば今の現状から出来る事はと、最善の結果を探し、それはすぐに見つかった。
でも、その手は、防げたところで全滅が半壊になるだけだ。
そして半壊となった艦隊で、アレスの艦隊を止める事ができるか。
答えは否と思い、そう思えばあれほど滑らかに動いていた指が動かなくなっている。
時間をかければかけるほどに、こちらの手はなくなるというのに。
視線が指先を見つける。
コンソールの上で所在なさげに震える手に、ライナは少し考えて、理解した。
ああ、これが恐いという事なのかと。
負けるのが。
蹂躙されるのが。
全滅するのが。
決して勝ち戦だけでは知り得なかった感情。
未来が見え、わかりきった結末では恐いなど感じるわけがない。
どうなるのかわからない。
だからこそ、人は迷う。
人は戸惑う。
そして、人は恐れる。
『君には恐さがない、だから同じく敵も恐いと思わない』
今ならばテイスティアの言葉が、ライナにも理解ができた。
ライナだけがいくら効率的にしたところで、それに誰もが付いてこれるわけがない。
そんな相手に対して敵が恐いと感じるだろうか。
震える手に答えを見つけて、ライナは微笑した。
恐いと思える――それが嬉しかった。
今まで感じたことのない感情をもって、自分もまた人間なのだと思える。
そう思えば、子供のようにただ見ているだけではあまりにも恥ずかしい。
何も出来なかったと、アレス・マクワイルドの記憶の片隅から消えるのは嫌だ。
だから、ライナは震える手を握りしめて、コンソールを叩き始めた。
少しでも、少しでも、彼の記憶に爪跡を残すために。
それが、この厚かましい願いに対して全力を持って相手をしてくれた敵に対する礼儀だと――ライナ・フェアラートは思った。
+ + +
「良い動きをするようになった」
一瞬の硬直の後に、動き始めた敵の様子にアレスは小さく笑んだ。
後退させながら、一部がこちらの正面に対して猛烈な攻撃を仕掛けている。
小を犠牲にしつつ、再び再編し、逆転を狙う策。
それは確率にすれば、わずか数パーセントほどの可能性しかないだろう。
だが、それのために全力をかけてきている。
それを恐くないと、誰が言えるだろう。
こ
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