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京に舞う鬼
第十九章
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「じゃあここは止まりますよ」
「うん」
 役はその言葉に頷いた。
「ほほほ、よい心掛けじゃな」
 鬼はそんな二人を見て嘲笑してきた。
「よいぞよいぞ」
「うるせえ」
 本郷はそんな鬼に対して言い返す。
「これで諦めると思うなよ」
「何度来ても同じじゃ」
 しかし鬼の態度は変わりはしない。
「主等では無理じゃ」
「へっ、大した余裕だぜ」
「それではな」
 鬼は姿を消した。
「わらわを倒すつもりなら何時でも来るがいい」ここの屋敷で待っておる」
「屋敷!?」
「私の別邸です」
 貴子が言った。
「ここ嵐山には私の別邸があるのです」
「そういうことか」
「そこに参れ。何時でも相手をしてやる」
 気配まで消えた。後には闇の中苦々しい顔をしている本郷と役、そして無念の顔で俯く貴子だけがいた。
 貴子の無念は何の為の無念であろうか。それは誰にもわからない。しかし彼女は同時にそこに決意も宿らせていた。それは強い決意であった。
 翌朝嵐山の大堰川の船の上に生け造りの様に並べられた少女の遺体が見つかった。その遺体は黄色と白の菊の花で飾られていた。今度は秋であったのだ。
「これもあいつには芸術なんでしょうね」
「おそらくな」
 二人はその船を川辺から忌々しげに眺めていた。その横には警部がいる。
「犯人、いや鬼と遭ったそうだな」
「はい」
 役がそれに答える。
「直接、刃を交えました」
「そうか」
 警部はそれを聞いて表情を変えずに頷く。
「だが。仕留められなかったか」
「申し訳ありません」
「言葉もありませんよ」
 役は謝り本郷はふてくされた言葉であった。
「私達二人がいながら」
「君達二人でも倒せなかったのか」 
 だが警部は二人を咎めたりはしなかった。それどころかその話を聞いて顔を強張らせてきた。
「そこまで手強いとはな」
 二人の実力はよくわかっていた。だからこそこう言ったのだ。
「恐るべき相手と言うべきか」
「言葉もありません」
「俺の小柄も手裏剣も刀も。あいつには効きませんでしたよ」
「ううむ」
「忌々しいことにね。それは本当のことです」
「だが君達しかいない」
 それでも警部は二人にこう言った。
「それは。わかっているな」
「はい」
「よおくね」
「では。引き続き頼む」
「わかりました」
 役は沈痛な顔でその言葉を受けた。
「取り逃してこんなことを言うのは何ですが」
 そして述べた。
「今度こそは」
「頼むぞ」
 本当に二人しかいないのだ。魔物の相手を出来る人間は僅かしかいない。その中でもこの二人はとびきりの腕利きである。相手がどれだけの魔物であろうとも今はこの二人に任せるしかなかったのだ。

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