第十八章
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ながら言った。
「今度は。夏の花がよいのう」
「季節はどれでもよいのかよ」
「それは違うのう。どんな季節でも常に全ての花があるのがよいのじゃ」
これは貴子と同じ考えであった。やはり影だけのことはある。
「無粋よのう。美の道を解さぬ者は。嘆かわしいことじゃ」
「嘆かわしくてもそうじゃなくても関係ねえ!」
本郷は激昂した言葉を吐いた。
「手前がやったことが許せねえんだ!覚悟しやがれ!」
右手に持つ小柄を投げた。それは鬼の胸を狙っていた。
「これで!」
「無駄なことを」
だが鬼はそれを見ても落ち着いていた。うっすらと笑みを浮かべていた。
「その程度でわらわを倒せると思うておるのか。愚かな」
その小柄を掴んだ。それで終わりであった。
「なっ!」
「ふん」
その小柄を手に取って眺める。
「よい刀じゃのう。持っておる者は愚かじゃが形はまことに美しい」
どうやら鬼は刀の美もわかるようであった。まじまじと見ている。
「それに退魔の力も備わっておるか。じゃがな」
あえてその小柄を掴んだ。
「わらわには効かぬ。では返すぞ」
小柄の刃を掴んだせいでその手と指が切れる。手が己の鮮血で紅く染まるがそれすらもうっとりと眺めていた。どうやら血というものに対して倒錯的な欲情を抱いているようであった。
その血塗られた刃を投げ返す。それは一直線に本郷に向かって来た。
「チイッ!」
左手の刀でそれを打ち落とす。それで何とか防いだ。
「俺の小柄が効かないなんてな」
「あの程度では天邪鬼さえ倒せぬぞ」
鬼は妖艶にして残忍な笑みを浮かべてこう述べた。
「青いのう、まだまだ」
「それではこれではどうかな」
今度は役が仕掛けた。懐の札を掲げる。
「受けろ」
その札を全て投げる。するとそれは赤い炎の矢となった。
赤い矢達が襲い掛かる。だがここで鬼の姿が分かれた。
「!?」
「わらわを何だと思うておる?」
矢は空しく鬼の分身を通り過ぎた。それで矢をかわした。
「わらわは影。影は何時でも消えることも出来る」
「闇の中でか」
「左様。闇は影」
「闇」
本郷はふとその言葉に反応した。だが今はそれどころではなかった。
「闇はわらわの力の源。今それを見せてやろうぞ」
腕を一閃させた。するとそこに闇が一条姿を現わした。
それは薙刀となった。鬼は首の髪を口に咥えるとその薙刀を両手で構えてきた。
「この刃でな」
「気を着けろ、本郷君」
役は隣にいる本郷にそう声をかけてきた。
「あれは。只の薙刀ではない」
「鬼の力の薙刀ですか」
「そだ、闇だ」
彼は言った。
「その刃は刃であって刃ではない。受けるなよ」
「受けられるものじゃないってわけですか」
「そうだ」
役の言葉はこ
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