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京に舞う鬼
第十七章
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「言い換えると。近くに鬼がいたら出るんですよ」
「ではもうすぐ側に」
「そういうことです」
 答える本郷の顔が険しくなった。
「暫く。俺の側から離れないで下さいよ」
「はい」
 貴子は本郷の言葉に従い側に寄った。もう辺りは暗くなり木々の間からは青黒い空と黒くなった葉が見える。その幹もまるで細長い妖怪の手足の様に見える。昼の山とは全く違った姿であった。
「そろそろ。出ますから」
 本郷は背中から刀を抜いた。それを左手に構える。
 右手には小柄を持っている。所謂二刀流というやつである。
 役は懐に手を入れていた。札を使うつもりであろうか。二人は戦闘態勢を整えて先へ進んだ。
 鬼火はその下にあるものを映し出していた。それはこの世にあってはならないものであった。
 暗い木々の中にそれはいた。少女の骸の上に己が身体を置き、死肉を貪っていた。
 同時にその身体を犯している。己が身体を骸の上に置き、乳房をまさぐり、腰と腰を重ね合わせている。犯しながら喰らう、最も忌まわしい行為であった。
 それを行っているのは貴子であった。いや、貴子と同じ姿を持つ存在がであった。黒と赤の豪奢な着物をはだけさせ、犯しながら喰らっていた。青い炎の中に浮かび上がるその顔は貴子と同じものであったがそこには邪悪な相が浮かび上がっていた。
「あれか」
 役はその女を見て言った。女は彼等に気付くことはなく骸を貪り続けていた。
 血に塗れた内臓をその手に取り口に入れる。血を啜る音が聞こえる。暗い山の中に不気味な音が響いていた。
 二人はその女に対して攻撃を仕掛けようとする。だがそれは適わなかった。
「!?」
 女は気配に気付いたのか顔を動かす。そしてゆっくりと起き上がった。
「誰かおるな?」 
 黒と赤のはだけた着物をそのままに起き上がる。その口には髪を噛んでおり少女の生首が吊り下げられていた。
「この気配は・・・・・・わらわか」
 そして貴子の気配も感じたようである。ふと目を細めた。
「わらわよ。何をしに来たのじゃ?」
「貴女を封じる為に」
 貴子は本郷の側から言った。青い炎の中に浮かび上がる己自身を見据えていた。
「わらわをか?」
 女、いや鬼は少女の髪を咥えたまま語る。そこから吊り下げられている首は空虚を眺め、血に濡れていた。あまりにもおぞましく、同時に否定せずにはいられない美しさがそこにあった。

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