暁 〜小説投稿サイト〜
京に舞う鬼
第十七章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第十七章

「ここなんですよね」
「はい」
 彼女はそれに応えて頷く。
「ここです。間違いありません」
「役さんの方はどうですか?」
「今のところ反応はないようだな」
 懐から札を取り出して言う。見れば札は白いままだった。綺麗な白が目に入る。
「けれどここにいると」
「竜華院さんが仰るにはな」
「こちらです」
 貴子は山の方を指差した。
「こちらに。私の影が」
「行きますか」
「ああ」
 二人はそれを聞いて頷き合った。そして貴子が指差した嵐山の方へ向かった。
 嵐山はここの名前にもなっておりここでは最も高い山である。緑豊かなこの山を今三人は登っていた。
 時刻は間も無く夕暮れになろうとしている。だが彼等はまだ影に会ってはいなかった。
「こちらなんですよね」
「はい」
 最後尾には貴子がいた。彼女は先頭を歩く本郷に答える。
「感じます、こちらに」
「貴女の影の気配を」
「ええ、こちらで間違いないです」
「山ですか」
「厄介だな、少し」
 役は辺りを見回しながらその表情を暗くさせた。
「厄介なのですか?」
「ええ、戦うにはね」
 彼は答えた。
「夜の山の中は。視界も悪いですし」
「それに鬼ってのは魔性ですからね。夜の方が力は強いんですよ」
「そうなのですか」
「元々鬼は山にいるものですしね」
 これは童話等によくある話である。かって山は異世界であった。朝廷に逆らう存在でもあった鬼達はその異世界に根城を置く。大江山の酒呑童子がそうであったようにだ。
「かなり厄介ですよ」
「はあ」
「まあ貴女は安全な場所におられればいいです」
「それで宜しいのですか?」
 貴子は役の言葉に顔を上げた。
「貴女は武道の心得はないのでしたね」
「ええ」
 また役の言葉に頷く。
「ですから。仕方ありません」
「それにこれが俺達の仕事ですしね。まあ任せて下さい」
「では。お願いします」
「了解」
 今度は本郷が答えた。三人はさらに深い山道へと入って行く。
 嵐山を越えて嵯峨小倉山に着く。その麓で三人は妙なものを見た。
「あれは!?」
 それは青い炎であった。暗くなろうとする山の麓でそれは浮かんでいた。
「人魂か!?いや違うな」
 二人にはその炎が何かすぐにわかった。
「あれは。鬼火だ」
「ですね」
 本郷は役の言葉に頷く。
「近いか」
「間違いなくね」
「あの」
 二人に貴子が尋ねてきた。
「何か?」
「あの青白い火に何かあるのですか?」
「鬼火って言葉は聞いたことがありますよね」
「ええ、まあ」
 普通に本でも出て来る言葉だ。貴子もそれは単語だけは読んだことがある。
「あれはね、鬼が出す火なんですよ」
「はあ」
 これは知っていた。だから鬼火なのだ。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ