第十六章
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よ。何で影は入れ替わらなかったんですかね」
「入れ替わるとは!?」
「言ったままですよ」
本郷は役にそう返した。
「ほら、よくあるじゃないですか。邪な心が本人を殺して成り代わるって話」
「ああ」
「俺、最初はそうじゃないかなって思ってたんですよ。けれど違っていましたよね」
「そういえばそうだな」
役も言われてみてそれに気付いた。
「影はそれをしては来なかったな」
「それはおそらく」
「おそらく!?」
二人は貴子の言葉に顔を向けた。
「いえ・・・・・・」
だが彼女はここで顔を背けてしまった。
「多分。違いますね」
二人は貴子のその態度に妙なものを感じた。だがここはそれについては聞かなかった。彼女を気遣ったのである。だがここに大きな秘密があることにやがて気付くのであった因果な場面で。
「それでは行きますか」
本郷は全てを納得したうえでこう言った。
「嵐山に」
「はい」
貴子もそれに頷く。
「それでは宜しくお願いします」
「わかりました。ところで竜華院さん」
「はい」
彼女は役の言葉に顔を上げた。
「貴女は武芸の心得は」
「残念ながら」
その言葉には首を横に振った。
「そうですか」
「道に専念して参りましたが。武の道は」
「まあ仕方ないですね」
だが二人はそれを当然だと受け止めた。
「やっぱり戦いは俺達二人がやりますんで」
「そこはお任せ下さい」
「わかりました。それでは案内をさせて頂きます」
「ええ、お願いしますね」
こうして二人は貴子を伴って鬼との戦いに赴くことになった。そして嵐山に向かうのであった。
嵐山は北からは全くの正反対にある。北が京都の北東にあるのに対して嵐山は西南にある。同じ京都にありながらその距離は呆れる程遠いのだ。
三人はバスで嵐山に向かった。途中何度も信号で止まり、着いた時には本郷は不機嫌さを露わにさせていた。
「電車で行けばよかったですね」
「そうか?」
だが役は彼とは全く違い落ち着いた様子であった。
「中々いい道程だったと思うが」
「役さんはこのバス、好きなんでしたね」
「何処に行っても料金は同じだしな」
京都の市営バスはそこが非常にいい。乗り心地も悪くなく、例えば金閣寺から京都駅へ行っても運賃はすぐ側に行くのと全然変わらないのだ。京都市内を動き回るには案外バスも悪くないのだ。
「おまけに街もよく見られる」
「成程、そういうことですか」
「君はどうもこの街並が気に入らないようだがな」
「別にそうでもないですけど」
しかし京都に何かと思うところがあるのも事実だ。
「まあいいです」
「そうか」
「それで竜華院さん」
本郷は役から貴子に顔を向けて尋ねてきた。
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