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久遠の神話
第五十五話 刃の使い方その十
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「彼方はまず私に力を使わせて」
「そしてね」
「彼を倒させた後で力を使いきった私を倒します」
「そうすれば一石二鳥だからね」
「賢いやり方ではありますね」
「夷を以て夷を制すだよ」
 中国でよく出る言葉だ。
「そういうことだよ」
「やはりそうですか」
「そしてそこまで読んでいるということは」
「当然貴方のお誘いには乗りません」
 スペンサーは穏やかだがはっきりとした口調で答えを告げた。
「わかっていて乗る人もいないでしょう」
「そういうことだね。流石に頭がいいね」
「士官は頭を使う仕事ですので」
 やはり穏やかだがはっきりとした口調だった。
「ですから」
「じゃあ貴方はこのまま帰るのかな」
「そうさせてもらいます」
 スペンサーは剣を持ったまま警戒の念を緩めてはいない、そのままで王に対してここでも言ったのだった。
「では」
「ああ、剣を持っている相手じゃないと戦わないよ」
 王はスペンサーにこのことを断った。
「そこまではしないよ」
「その言葉を信じろと」
「戦わないならいいよ」
 王もまたこの考えだった。
「一番いいのは戦いから去ってもらうことだよ」
「そこは私と同じ考えですね」
「何の苦労もなく目的が達せられればそれでいいよ」
 ある意味において現実主義だった、王もまたこうした考えなのだ。
「巨万の富が得られればね」
「貴方の戦われる目的はそれですか」
「その通りだよ」
「確かに。戦いは命を賭けますし」
「刃はj本来人に向けるものではないしね」
「?どういうことですか?」
「刃は食材に向けるものだよ」
 王は自分の言葉にいぶかしむものを見せたスペンサーにすぐに答えた。
「肉にしろ魚にしても野菜にしてもね」
「貴方は料理人でしたか」
「これでも料理の腕には絶対の自信があるんだよ」
「それに刃を向けるものですか」
「その通りだよ」
 料理人としての言葉、それだった。
「剣というものは本来私が持つべきものじゃないんだけれどね」
「ですがそれでも」
「そう、お金が欲しいからね」
 王は淀みのない笑顔でスペンサーに返した。
「戦うよ」
「富は誰もが欲しいものですが」
「まあ。私の生まれはそんなに悪くないと自分では思ってるよ」
「生まれですか」
「中華人民共和国広東省広州市の生まれだよ」
 自身の生まれを屈託なく話す。
「家は食堂をしていてね」
「では代々ですか」
「まあ。爺さんは文革の時に苦労させられたらしいけれど」
 文化大革命の頃は誰であろうと革命の敵と思われただけで徹底的に糾弾され弾圧、迫害された。殺された者も多い。
 その中には技術者、料理人も含まれていたのだ。それで王の祖父もだったというのだ。
「今ではそれなりに大きな店でね」
「そし
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