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久遠の神話
第五十五話 刃の使い方その七
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「人を殺さないに越したことはありません」
「倫理観か」
「貴方はどうかわかりませんが」
「これでも人を殺したことはないんだがな」
「戦いがお好きなのにですか」
「地下世界でファイトマネーを賭けた戦いはやってるがな」
 所謂非合法、非正式の戦いの世界だ。そこではあらゆるルールが無視された戦いが行われる、加藤はその中でも戦っているのだ。
「公でも格闘技の選手権に出たりな」
「武器を持つものですか?」
「どっちもだ」
 素手のもの、武器を使うもの双方に出ているというのだ。
「出ている」
「戦えるならそれでいいというのは嘘ではないですが」
「そういうことだ」
「それで非合法の世界でも戦われて」
「誰も殺したことはない」
 そうだというのだ。
「まだ、だがな」
「成程、そうですか」
「相手と戦い倒すことには興味があるが血や命には興味がない」
 これが加藤の考えなのだ、彼の興味はあくまで戦いに対して向けられているのだ。
 相手の命には興味がない、それでだった。
「止めを刺したことはない」
「命には興味がありませんか」
「戦うだけだ」
 あくまでそれだけだというのだ。
「他はいい」
「成程、残酷ではないですか」
「誰か、何かをいたぶる趣味はない」
 つまりいじめはしないというのだ。
「そんな下種じゃないつもりだ」
「弱いものいじめは確かに醜いですね」
「そんなことはしたことがない」
「あくまで戦いですね、関心があるのは」
「そういうことだ。あんたもだ」
 スペンサーもだというのだ。
「戦いたいがいたぶるつもりもない」
「そうですね。私もです」
 そしてそれはスペンサーもだった。
「ですからもう一度言います」
「降伏か」
「そうして下さい、そして戦いを降りて下さい」
 重力で締め付ける中での言葉だった。
「今すぐに」
「何度も言うがそれはしない」
 加藤の返答は変わらない。
「生憎だがな」
「そうですか。では仕方がありませんね」
 再度の降伏勧告も拒絶された、それならだった。
 彼も選択肢はなかった、それでだった。
 加藤を押し潰さんとする重力を強くさせた、すると。
 その重力で身体がきしむ音がした、そうして。
 身体にダメージが蓄積されていった、潰されるのは目前だった。
 だが加藤の言葉も表情も変わらない、姿勢もそのままで。
 目だけを爛々と輝かせてそれで言うのだった。
「このままでは倒れるのは俺だな」
「逃げられないと思いますが」
「そもそも動けない」
 それも言う彼だった。
「それではな」
「選択肢は敗北だけですね」
 正確には選択肢ではないがそう言うスペンサーだった。
「私の勝ちです」
「負けるとは一言も言っていない」
 ここでも素っ気無い
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