VSマクワイルド
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戦術シミュレータの試合はアレスの勝利で終わった。
空気圧が排出される音とともに筺体全部のカバーが開いていく。
先ほどまでの言葉を聞かれたくはなかったのか。
聞かれるはずもないのに、周囲にいた観客達があっという間に去っていった。
一人、ライナは共有スペースに残る。
考えれば、アレスと会うのは、これが二度目である。
しかも、一度目は知らなかったとは言え、挑発までしている。
挑戦したいと言う思いはあるが、ここで戦って欲しいといったところで、素直に戦ってもらえるだろうか。
難しい気がした。
そもそも三連覇の名声を破ろうと、あるいは記念にとアレスに対して戦術シミュレータの戦いを挑む者は非常に多いと聞いている。そこにまだ一学年の自分が――それも戦術シミュレート大会前の貴重な時間を潰してまで、訓練に付き合ってもらうのは難しいだろう。
おまけにライナは明確な敵だ。
手の内を見せることを、普通は嫌う。
考えれば考えるほどの絶望的な状況だ。
だが、ライナの胸に浮かんだ感情を無視することは出来そうもない。
戦ってみたい。
その想いが迷いながらも、ライナの足に力を込めた。
一歩前に出ようとして――。
「フェアラートさん?」
唐突にかかった声に、ライナは足を再び止めた。
声の方を見れば、金褐色の髪に淡い茶色の瞳をした少女がいた。
柔らかな物腰と優しげな顔立ちは、どこか幼く、同姓から見ても可愛らしい。
戦術シミュレータを終えたばかりであるのか、髪の一房が頬に汗でついていた。
クラスこそ違うものの、彼女の名前はすぐに浮かんだ。
一学年の次席であり、同盟軍の重鎮を父に持つ同級生。
「グリーンヒル候補生?」
フレデリカ・グリーンヒル……その名前を、ライナは呼んだ。
+ + +
どうやらアレスとフレデリカは同じチームであるようだった。
他のチームに興味がなかったため、チーム編成を見ていなかった。
驚くライナに、同じようにフレデリカも驚いたようであった。
本来は訓練中である同級生が、この場にいれば無理もないだろう。
「えっと……もう訓練は終わり?」
慎重な問いかけに対して、ライナは小さく頷いた。
「そう、お疲れ様」
「別に疲れてはいないから」
そうフレデリカと言葉をかわしながら、視線は戦術シミュレータの筺体を探す。
いない。
フレデリカに目を奪われた一瞬で、既に筺体内にアレスの姿はなかった。
辺りを見渡すライナの様子に、フレデリカが小さく首を傾げた。
「マクワイルド先輩に、御用?」
と、少し考えて、ゆっくりと背後を指さした。
がたんとの落下音に、背後を振り向けば、自動販売機に手を突っ込む
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