第十章
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の腹は縦に切り裂かれ傷口から紅い血が出ている。黒く長い髪まで血に染まり、それが白い、いや青くなった身体にへばりついている。両手を上にして縛られて吊り下げられておりその顔にも最早生気はなく、虚ろに下を見ているだけであった。あまりにも惨い屍であった。
「役さん」
「ああ」
役は本郷の言葉に頷き懐からあの札を取り出した。見ればそれはあの時と同じで完全に焦げてしまっていた。
「間違いないな」
「やはり」
「あの寺の事件と同じ犯人だな」
「間違いないかと」
役は警部にもそう答えた。
「そしてこれは」
「わかっている」
警部はそれ以上聞かなくとも彼の言いたいことはわかっていた。
「それにしても惨いことをする」
警部も顔を顰めさせていた。
「ここまでするとは。犯人はかなり悪趣味な輩の様だな」
それが本当に犯『人』であったならばだ。そうでないことは警部も承知している。だからこそあえてこんな表現を使ったのである。事情は複雑だ。
「そうですね」
二人もそれに同意した。
「こうした輩は。時折います」
「この日本にもね」
「まずは死体を回収するか」
このまま遺体を橋から吊り下げているわけにはいかなかった。警部はすぐに判断を下した。
「とりあえず君達は現場の捜査に協力してくれ」
「はい」
二人は警部の言葉に従った。
「遺体はこちらで調べておく。現場での捜査が終わったらこっちに来て欲しい」
「わかりました。では後で」
「うむ」
遺体が回収され警部は部下を連れて署に戻った。そして本郷と役は残った警官達と共に現場の捜査にあたるのであった。
二人は警官達に劣らない動きで捜査を行っていた。どうやらかなり慣れているようである。
その中であった。役はあることに気付いた。
「役さん」
「どうした」
そして役に声をかける。役の方もそれに顔を向けた。
「血が。全然ないですね」
「血が、か」
「はい。あの遺体は腹を縦に切られてましたよね」
「ああ」
確かにそうであった。切られた腹は紅い血で染まっていた。
「けれど現場には。血が一滴もないです」
「一滴もか」
「見て下さいよ、この川辺」
そして川辺を手で指し示す。
「綺麗なものですよね。それに橋も」
「うん」
「血なんて全然ありません。あんなに派手に切ってるのにね」
「あらかじめ死体の血を抜いていたのか」
「最初の事件と同じですよね」
そしてこう言った。
「血がないっていうのは」
「知ってると思うが」
役はここで本郷に顔を向けてきた。
「日本にも吸血鬼はいる」
「はい」
これは本当のことである。飛頭蛮という中国から渡ってきたとされる妖怪がいる。ろくろ首の一種とも言われるこの妖怪は日中は普通に暮らしているが夜になると
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