第5章 契約
第75話 夜の森
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実に決まった訳では有りませんか。
「タバサ。このハルケギニア世界に、今、この目の前に転がって居る無貌の生命体が生息して居る、……と言う事はないか。出来る事なら実際に存在している事が望ましいけど、伝承や伝説の中に残されているだけでも構わないから」
瞳は未だ不気味な生物に向けたままの姿勢で、右隣に並ぶ少女に問い掛ける俺。かなり緊張した雰囲気にて。実際、こんなヤツらが単独で……。コイツら一種族だけが顕われているとは考え難い状況だと思いますから。
まして、コイツらの役割は……。
はぁす はぁす、はすつー はすとぉーる ずぃ〜ああぁんんすくーくくぅぼぁ〜ん
「伝承や伝説に付いては不明」
無味乾燥実用本位の答えを返すタバサ。しかし、その彼女も未だ視線をこちらに向けた雰囲気はない。
そして、更に続けて、
「わたしの知る限り、現実にこのような生命体が存在して居る事など知らない」
ほぼ予想通りの答えを続けたタバサ。
彼女の言葉が晩秋の冷たい大気と、蒼き偽りの女神が支配する世界に散じた瞬間、それは起こった。
羽根を、四肢を断たれ、致命傷を負いながらも未だ地上で落ち葉を撒き散らし、大地を叩き続けて居た黒き影。ナイトゴーントたちの姿が徐々に闇と同化して行き始めたのだ。
もがき苦しむように足が、棘で覆われた尾が空しく虚空を掻き、風をはらむ事の出来なくなった羽根が大地を叩く。
その黒き身体を覆い隠す……。いや、違う。その黒き闇自体が、ヤツら。ナイトゴーントから発生していたのだ。
その闇に呑み込まれた個所から、徐々に。徐々に、まるでお湯に放り込まれた角砂糖のように、てらてらとした黒き光りを放つゴムの如き肌が溶け落ちて行く。
そう。その崩壊を止める術はもうない。俺とタバサの見ている目の前で、コウモリの如き羽根が溶け落ち、禍々しきカギ爪を持つ手が、脚が先の方から消えて行く。
腕も、首も、脚も、尾も関係なく細かな闇の粒子と化して黒き闇に同化して行くナイトゴーンド。
最期の瞬間。まるで声なき声を発するかのように、一度首をもたげて俺の方に首を向ける無貌の夜魔。
そして、存在しないはずの瞳に怨嗟の炎を宿し、口からは呪詛の苦鳴を残して完全に闇へと還って行く。
次々と……。
その声なき声が響き渡った瞬間、まるで表皮全体が粟立つかのような感覚に苛まれ、森と夜は更に闇の濃さを増して行った。
そう。その瞬間に木々の間より、月光は煌々と降りそそぐ晩秋の相応しい静寂に満ちた夜が戻って来たのだ。
この世界のスヴェルの夜に相応しい狂気に支配された静寂の夜が……。
「大いなる深淵の大帝に仕える存在。夜魔ナイトゴーント」
木々のざわめきすら聞こえない、死に満ち
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