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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第75話 夜の森
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蒼き偽りの女神のみが支配する夜の世界。
 木と木の間に広がる蒼穹には、頂点からはやや西側に移動した蒼き偽りの女神がその満面に讃えた冷たき笑みを地上へと投げ掛け、
 そして、瞬く星の光りからは普段以上に妖しい気配を感じさせる。

 いや、星座の位置に詳しい訳では有りませんが、今宵の蒼穹に見える星座は、何故か奇妙に歪んで見えて居るように俺には感じられたのですが……。
 もっとも、数万年単位でならば星座の位置と言うのは変わる可能性も有りますが、昨日今日の単位で変わる訳はないので、これは単なる気のせいと言う事なのでしょう。

 そんな、奇妙な感覚に囚われて居た俺とタバサの周囲を、この季節に相応しい風が吹き抜けて行った。

 流石に、いくら火竜山脈と言う真っ当な科学的知識の向こう側に存在するファンタジー世界の代表的な場所だったとしても、十一月と言う季節は地球世界と同じように晩秋に当たる季節で有る以上、大気自体の冷たさはどちらの世界でもそう変わりは有りません。
 そう。森の僅かな風の流れさえ忌まわしい呪文に聞こえて来る不気味な夜。正に、魔の夜と言う表現こそ相応しい今宵。
 この世界のスヴェルの夜。

 ぼんやりとした意識の片隅で、この間近に迫った冬を感じさせる冷たい風の音でさえ、何か巨大な生き物が、その冒涜的なまでに奇妙な形の咽喉の奥から発せられるこの世のモノとも思えないような歌。……まるでむせび泣くような声で歌い上げて居るような、そんな気さえして来る状況。

「寒くはないか、タバサ」

 自らの不安を無理矢理ねじ伏せ、普段と変わらない口調で相棒に向けて問い掛ける俺。
 サラマンダーを村の護りに置いて来て仕舞った以上、今の俺とタバサの二人を寒さから護るのはシルフの大気を操る技能で、冷たい空気をシャットアウトするぐらいしか方法はなく、間接的にでは有りますが外気温がその薄くはない空気の層を伝わって俺たち二人に届いて来て居ました。

 この瞬間、時折吹き込んで来る十一月の風に、すっかり葉を落として仕舞った木が寒そうにその枝を震わせた。
 そう。ここは冬を間近に控えた冬の森。普段は精気に溢れた森でも、流石にこの季節の森は、来年の春を目指して冬籠りの最中。
 生あるモノの気配を感じ取る事は有り――――

 かさり――

 ――ません。そう考え掛けた時、明らかな葉擦れの音が上空から聞こえて来る。
 普通の人間ならば絶対に気付かないレベルの微かな物音。その瞬間、反射的に上空を仰ぎ見る俺。
 其処に存在して居たのは……。
 蒼い偽りの女神のみに支配された、普段よりは少し暗い蒼穹に浮かぶ複数の黒い影。

 その正体を見極めようと、瞳に更に霊力を籠めて行く俺。

 其処には……。
 蒼き月の光輝を浴びても尚、黒き生命体。頭
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